第70回 チャップリン(その三)---若い娘とばかり結婚を4度―名作喜劇のウラには男女愛憎劇もあり

チャップリンは、4度結婚している。

1917年の夏、15歳の女優、というよりエクストラと呼ぶ方がふさわしい少女、ミルドレッド・ハリスを一目で気に入った。
ハリウッドきっての高給取りが、年端もいかない、小娘に夢中になったのだ。

チャップリンは、毎日、ミルドレッドに花束を贈り、レストランに連れていった。
何時間もの間、ミルドレッドの出演が終わるのを、リンカーンの後部座席で待っていたという。
ミルドレッドは、輝くばかりの金髪で、顔立ちも愛くるしく、濡れた瞳を持っていた。

けれど、彼女が持っていたのは、美貌だけであった。それ以外、何物も持たない、空虚な女性に過ぎなかった。
この件については、チャップリンの側により多くの責任があることは間違いないだろう。
ミルドレッドが知性を欠いていたのはたしかだが、チャップリンもまた、人間性については、大きな口を叩けない。
ミルドレッドは、シンデレラの王子と結婚したはずなのに、実際の夫は、芸術に心血を注いでいる人物だったのだ。

そして、チャップリンは、2度目の結婚をした。
リタ・グレイと結婚したのである。
花嫁は、16歳だった。
リタは、チャップリンの『キッド』に出演したことがある女優だった。

しかし、ハネムーンの夢はすぐに醒めた。
リタの母であるマクマレー夫人は、たちまち主婦として家庭に君臨した。
静かだった邸宅は、スピークイージーのようになり、当の主人をほったらかして、狂態を続けていたのである。
芸については完全主義者である、チャップリンは、この事態を放置するわけがなかった。

「出ていけ!」

リタは、二人の子供をつれて、酔客といっしょに出ていった。
そして、すぐさま、離婚訴訟を起こしたのである。

リタは、和解に応じた。
そして百万ドルの慰謝料を手に入れたのだ。
リタは、極めて執拗だった。
チャップリンとの性生活を、40年にわたって、語り続けたのである。
反チャップリンを標榜する、右派メディアやマッカーシーの朋輩たちは、鬼の首をとったように、大騒ぎをした。

ついで1936年、チャップリンは、豪勢なヨットの上で、ポーレット・ゴダードと秘密裏に結婚した。
ゴダードは、25歳だった。
性懲りもなく、若い娘を伴侶にしたのである。
ポーレットは、女優になりたがっていた。

チャップリン自身、彼女を女優にしようと努力したが、結局諦めざるをえなかった。
けれど、ポーレットと過ごした時間―『モダン・タイムス』から『独裁者』まで―は、喜劇王のピークだった事は、誰もが認める事だろう。