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おもてなしの達人 大阪のおばちゃんはホンマ、凄いで"どないしたん、なんか困ってんの?"頼まれてもないのに寄ってきて手を差し伸べる。言葉の壁なんてお構いなし

週刊現代 プロフィール

空気ではなく、気持ちを読む

作家の故・藤本義一氏の夫人で、エッセイストの藤本統紀子さんも「不思議体験」者の一人だ。最初の洗礼は結婚し、お産をした直後のことだった。

「私は広島の高校を出た後、大阪女子大(現大阪府立大)に進学。学生時代に知り合った主人と結婚して、大阪府堺市で暮らし始めました。ある日、自宅で掃除機をかけていたら、知らないおばちゃんがズカズカと家の中に入ってきて、『奥さん、出産から間もないのに掃除機なんか使ったらアカンよ』と言う。そして、それだけ言うと、『ほな、お大事にね』と帰っていくのです。あの家には近所のおばちゃんが何人も来ましたね」

一昨年、夫の義一氏が亡くなると、統紀子氏が街を歩いているだけで、

「大丈夫?」

「残念やったねぇ……」

と無数の見知らぬおばちゃんが悼んでくれたという。

「嬉しかったですね。中には『奥さん、随分と痩せはって……』と心配してくれた方もいましたが、体重は変わっていません(笑)。それぐらい、誰かと関わることが好きだということです。先日も道を歩いていたら、後ろで『あんた、寒いんやから早く家に帰りや』というおばちゃんの声がした。『誰に言うてるんかな』と振り向いたら、犬でした」

ただし、大阪のおばちゃんは、闇雲に声をかけまくるわけではない。

「空気を読む、という言葉があるように、現代人は周囲の目を気にして行動しがちです。空気を読むということはつまり『みんなで一緒のことをしよう』ということ。たとえば、明らかに道に迷っている人がいても、誰もその人に話しかけなければ、自分も話しかけない。でも、大阪のおばちゃんは空気ではなく、人の気持ちを読む。だから、困っている人がすぐにわかる」

と言うのは追手門学院大学地域文化創造機構特別教授の佐藤友美子氏だ。

たしかに、前出の新井氏はこう話していた。

「頻繁に大阪に通っているうちに、次第に道などがわかるようになってきたんですが、そうなると、不思議なことにおばちゃんたちから、声をかけられなくなったんです」