「指宿、お前どうするよ。メガバンクの醜聞を隠し通せと言われたら」---TBSドラマ「半沢直樹」の原作者・池井戸潤氏がメガバンクの腐敗究明を描いた『銀行総務特命』

解説:村上貴史(文芸評論家)

銀行員の心を知る

 
新装版 銀行総務特命』著:池井戸潤
価格:695円(税抜)
Amazonはこちら

Amazonはこちら

■第四作
一九九八年に『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞してデビューした池井戸潤。

彼は、昨年2010年には『鉄の骨』で第三十一回吉川英治文学新人賞を受賞し、そして今年2011年には『下町ロケット』で直木賞を受賞した。今まさに人気急上昇中の作家である。

この『銀行総務特命』は、池井戸潤にとっての4冊目の著作となる短篇集であり、2002年8月に刊行された。本書はその文庫新装版である。主役を務めるのは、帝都銀行総務部の指宿修平(いぶすきしゅうへい)。帝都銀行で唯一、不祥事担当の特命を受けている人物である。その彼が銀行内部で起きた不祥事の真相を探るという流れを基本パターンとしつつも、それぞれに変化を備えた八篇が収録されている。

■全八話
第一話「漏洩」は、銀行の機密文書流出を巡る事件である。

ミカドと名乗る男が、名簿業者に五百万円で売り込んだのは、帝都銀行から流出した融資先の名簿だった。その名簿には、帝都銀行が融資先を評価した極秘の信用格付けまでもが記載されている。この情報漏洩が一般に知られたら大事件になる・・・・・・。

指宿は情報の流出経路を探るとともに、ミカドとの対決も進めねばならず、さらに情報漏洩の影響も抑え込まねばならない。否が応でも八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍をしなければならないのである。それ故に、物語は実にテンポよく進む。テンポよく進んで、最後に銀行員の哀しみが浮かんでくる。ミスが発覚すれば左遷、ミスを封じ込めれば出世。ノーミスという呪縛に搦め取られて人としての判断力を失った銀行員の哀しみが、指宿とある男の会話を通じて浮き彫りになってくるのだ。

続く第二話「煉瓦のよう」でもまた銀行員がくっきりと描かれる。

たたき上げの男がいた。煉瓦のような顔をした男だった。三十年前に非エリートとして帝都銀行に入り、今では支店を統括する支店部長という地位を射止め、さらに執行役員の肩書きも得た。そんな男に、民事再生法の適用を決めた建設会社に絡む二百億円の損失に関与したという疑惑が浮かんだ・・・・・・。

この「煉瓦のよう」、実に巧みに演出された一篇である。まず、〝けんか元さん〟の異名をとる煉瓦の男と指宿の一対一の緊張感に満ちた対決があり、その一方で二百億円損失の〝犯人捜し〟が描かれる。この二つのストーリーを絡ませて物語を紡ぎ、そしてさらに終盤にあらたな謎も用意しているのだ。謎、死者、そして真相。尋常じゃない深さを備えた短篇である。