読書人の雑誌『本』
『城を攻める 城を守る』著:伊東潤---城をめぐる 城を楽しむ
城を攻める 城を守る』著:伊東潤
価格:900円(税込)
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この二月、『城を攻める 城を守る』という歴史研究新書を上梓した。
二年間二十四回にわたり、雑誌『歴史人』に連載してきた記事を、一冊の本にまとめたものである。

連載開始にあたって、よくあるような城の紹介本にはしたくなかった。
オリジナリティがある上、テーマが明確なものにしたい。また城に行かずとも、読むだけで楽しめるものにもしたい。

そこで、取り上げる城を籠城戦のあった城に絞った。
今、巷に出回っている城関連の本を見回すと、美しい天守を頂く、いわゆる「名城」の紹介本ばかりで、その城でどのような戦いがあったか、またはなかったかなどに、あまりこだわっていない。

一方、学術的な専門書の類も、城の縄張りやパーツの話に終始し、歴史的な経緯や戦闘状況という切り口から論じられたものは少ない。

それゆえ私は、籠城戦のあった城の本を書こうと思った。
それには、もう一つ理由がある。
実は、ある籠城戦が私に作家の道を歩ませたからである。

一九六〇年六月にこの世に生を受けてから二〇〇二年五月まで、私は、一度たりとも作家になろうとは思わなかった。ましてや小説などというものを、それまでの人生で一行たりとも書いたことはなかった。
そんな私が作家になったのは、たまたま訪れた中世古城がきっかけだった。
その城の名は山中城。箱根山西麓にある小田原北条氏の城である。
この城で豊臣秀吉率いる六万余の大軍を迎え撃った四千余の北条軍は、大激戦の末、二千もの戦死者を出して敗れ去った。
小田原合戦の緒戦となったこの戦いの帰趨が、その後の戦況にも大きく影響し、関東に覇を唱えた北条氏は滅亡する。
こうした史実を知っている人は多いが、その城の遺構や戦いの経緯を知る人は少ない。

かくいう私もそうだった。
しかしそれだけでは、城に魅せられることもなかったはずである。
その日、たまたま訪れた山中城で、私は、その城の堀の美しさに衝撃を受けた。それは、土でできた芸術品としか思えなかった。
それが、北条流築城術の精華である「畝堀」「障子堀」という遺構だと知るのは、後になってからだが、その時は、ただその美しさに圧倒された。
しかしなぜ北条氏は、こんな堀を必要としたのか。