読書人の雑誌『本』
『日本橋本石町やさぐれ長屋』著:宇江佐真理---江戸のシェアハウス
日本橋本石町やさぐれ長屋
著:宇江佐真理
価格:1500円(税込)
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近頃、シェアハウスという言葉をよく聞く。

トイレと浴室が共同の下宿などをそう呼ぶらしい。下宿よりもシェアハウスのほうがおしゃれな感じがする。うまい言葉を考えついたものだ。都会でアパートやマンション住まいをしている人達は隣りが何をしているか知らないことが多いという。ご近所つき合いも当然ないだろう。そのほうが人間関係の煩わしさもなく、気楽だと考える人間が増えているようだ。その気持ちはわからぬでもない。

シェアハウスで暮らす人達も、こぎれいなアパートやマンション、できるなら一軒家に住みたいと考えているはずだ。経済的な面でそれが難しいから、家賃の安い住まいに住んでいるのだ。

職業や年齢は違えども懐具合は似たようなものだから、顔が合えば挨拶するし、実家から食べ物が送られて来ればお裾分けぐらいはするだろう。プライバシーを侵されたくないと頑なに考える人間は別として、他人にちょっとした気遣いをしたり、されたりするのは嬉しいものだ。

それがシェアハウスの醍醐味と言ったら大袈裟かも知れないが、案外、シェアハウスの住人達は楽しく暮らしているような気がする。まあ、これは私の勝手な想像ではあるが。

江戸時代のシェアハウスと言えば、これはもう裏店(棟割長屋)に決まっている。表通りに面した家が表店と呼ぶのに対し、狭い路地の奥に建てられているから裏店なのだ。店と名がついているが商売している家は少ない。

裏店一軒の広さは間口九尺(約二・七メートル)奥行き二間(約三・六メートル)が一般的で、六畳間の座敷に三尺(約九十センチ)の土間と三尺四方の流し、煮炊きをする竈(かまど)が設えてあり、その上には煙抜きの窓があった。

窓は引き窓で、竹の棒などで支えて空気の入れ換えができる作りになっている。押入れのない所が多いので、夜具は畳んで枕屛風などで囲い、人の眼に触れないようにしている。