経済・財政
「講座:ビジネスに役立つ世界経済」
【第35回】 日本の経常収支黒字急減は日本の競争力低下の証か?

〔PHOTO〕gettyimages

定着しつつある日本の経常赤字

今年になってアベノミクスの評価が急激に低下しているようだ。昨年はアベノミクスに高い評価を下し、日本経済の将来に大きな期待を抱いていた外国人投資家も、日本株のポジションを急激に落としている模様である。

アベノミクスの評価が低下した理由として、TPP交渉の難航(これは、そのままアベノミクスの成長戦略の評価につながる)や安倍首相の保守的な政治姿勢の鮮明化が指摘されることが多いが、これに加えて取り沙汰されているのが経常収支黒字の縮小、貿易収支赤字の増加に現れた「日本企業の競争力低下」の懸念である。

1月の貿易収支は、2兆7,900億円の赤字と過去最大の貿易赤字となった。この数字は原系列であり、元々季節的に1月の貿易収支は赤字になることがあるため、必ずしも重要な数字ではない。

だが、季節調整済系列でも1月の貿易収支は1兆8,188億円の赤字と、昨年12月の1兆2,588億円から赤字幅は拡大しており、貿易赤字が拡大傾向にあるのは間違いない。また、現時点では昨年12月までのデータしか発表されていないが、経常収支も9月以降、4ヵ月連続の赤字となっており、経常赤字が定着しつつあるように見える。

日本の経常収支赤字化に際しては、「日本は経常収支黒字で稼いだお金で海外から燃料、原材料、農産物を買っているので、経常収支赤字になれば、海外からモノを購入できなくなる」という話がまことしやかになされることがあるが、全くの間違いである。

国際収支統計は単に、海外との財、サービス、金融商品等の取引を複式簿記の形式で表したものに過ぎない。しかも、財務諸表でいうところの損益計算書(P/L)でもないので、経常収支赤字は日本が「損失(=損)」を出していることを意味するものでもない。

また、国際収支を「勘定」で見れば、(誤差脱漏をゼロと仮定すれば)経常収支の裏側には資本収支と外貨準備増減があり、経常収支赤字を上回る資本収支黒字があれば外貨準備は増加し、日本の対外資産は増える。加えて、日本は過去の蓄積から膨大な対外純資産を保有しているので経常収支赤字の状況が多少続いたところで「外貨が枯渇」するような事態にはならない。

もっとも、ほとんどの国が変動相場制を採用している状況では、外貨準備が多いか少ないかという話すらも経済を語る上では大した意味はない。年間の誤差脱漏が5兆円を超えることもざらなので、国際収支統計を細かく見て3兆円程度で推移する経常収支を議論したところで経済の先行きに対して重要なインプリケーションがもたらされるとも考えにくい。

さらに言えば、かつては、経常収支と長期資本収支の合計額を「基礎収支」と呼び、これが一国の外貨獲得能力を示す指標として一部のエコノミストや為替アナリストに重宝されたことがあったが、現在はなくなっている。理由は簡単である。この統計に意味がないからである。

以上より、「経常収支黒字の減少は日本の競争力低下を意味するものではない」といって、話をここで終えてもよいのだが、せっかくなので、最近の経常収支黒字縮小の原因を考えてみよう。

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