官々愕々 派遣法改正の前にすべきこと
〔PHOTO〕gettyimages

派遣法が改正されそうだ。これまでは、専門的なものを除く普通の業務では、派遣を活用できる期間は「3年」が上限だった。この規制を緩和して、すべての仕事で、3年ごとに派遣労働者を代えれば、派遣に仕事を任せ続けられるようにするという。これに対して、非正規雇用をますます増加させるとして反対の声が上がっている。

自民党を支持する既得権団体の反対が怖くて、規制改革をほとんど進められない安倍政権にとって、雇用関連の規制改革は、固定客を失う心配がなく、しかも、経団連が一番喜ぶ話なので、どうしてもやりたい政策だ。連合も、実は大企業正社員の既得権を守る団体だから、本気で反対はしないから実現はしやすい。

最近、格差批判が高まってきているが、その最大の原因は、企業や産業の生産性が上がらず国際競争力が弱まる中で、企業があらゆる手段で賃金抑制によるコスト削減を図っていることにある。これに対して、事後的に格差を是正するための政策(例えば累進課税の累進度を上げたりするなど)を強化するだけでは、労働意欲が減退し、生産性はかえって低下するため、分配すべきパイそのものが縮小してしまう。

経済学的には、労働者を生産性の低い企業や産業から生産性の高いところに移動させればよいというのが定説だから、派遣などの非正規雇用を使いやすくしようという理屈になる。

しかし、この要請は、あくまで経営者側の視点に立ったものである。雇用関連の課題は多岐にわたるが、これらは単に企業競争力の観点だけで論じるべきものではないし、労働者保護の観点だけで考えてもいけない。また、雇用問題を労使の対立問題とする従来の図式では、社会全体の視点が抜け落ちていた。その結果、日本の社会構造が歪む結果になっている。

最大の問題は、日本人男性の働き方だ。会社に従属し、夜遅くまで働き、休みもろくに取れない。この非人間性は、先進国では類を見ない。

女性の社会進出が叫ばれるが、男性同様に活躍したいという女性は滅私奉公しかない男社会のなかで男と同じ働き方をしなければならない。そんな環境で子どもを生み育てるのは難しい。その結果、優れた女性の才能を埋もれさせ、少子化も進むし、経済にも大きなマイナスになる。

さらに問題なのは、男も女も会社に縛られているから、民間の様々な活動が弱い。自助、共助、公助のうち、共助が弱いのが日本の特色だ。労働運動、消費者運動、環境活動、政治活動、脱原発運動、様々な慈善活動、すべてが弱く、政府・自治体がそれに代わる役割を求められるために官が肥大化する。政府と企業だけが強大な歪んだ社会になっているのだ。これでは先進国ではない。そこから抜け出すために、何をすべきか。

サービス残業撲滅のための徹底取り締まり。似非管理職制や裁量労働制の乱用規制、例えば、年収で800万円とか1000万円以上という規制をかける。有給休暇の強制取得または買い取りを義務付ける。残業の割増率を高める。これらは雇用増加にもつながる。残業実態や有休取得実績の開示を義務付け、不当表示には厳罰。厳格な同一労働同一賃金規制を導入。企業の年金、健康保険の対象になっていない非正規雇用の労働者にも広くこれらの権利を与える。

こうした改革やセイフティ・ネットの強化策とともに、雇用の流動化を検討するのが本筋だ。もちろん、経団連は反対するだろう。安倍総理はこれと戦う勇気があるのか。誰のためのアベノミクスか。その真価が問われる。

『週刊現代』2014年3月8日号より

原発の倫理学(税別価格:1400円)
話題作『原発ホワイトアウト』著者・若杉冽氏推薦! 「霞が関には古賀さんを隠れキリシタンのように慕っている官僚たちがいる。原発の裏も表も全部わかる必読書」

原発は「倫理的」に許されないエネルギーだという議論をすると、それは「感情的」あるいは「主観的」な議論であるというレッテル張りをされる傾向があります。経済論や技術論は受け入れられても倫理論は受け入れられないのが現状だと言ってよいでしょう。しかし、倫理の問題は、経済や技術の分野でも非常に重要な問題です。二人の元総理(小泉氏と細川氏)が期せずして脱原発を「人の生き方の問題」「倫理の問題」として語り始めたことは、極めて重要な意味があります。私が小泉氏や細川氏に期待するのは、大きな哲学、「脱原発の倫理観」を国民に提示し、国民的大議論を巻き起こすことです。議論の末、国民の大多数が新しい日本の生き方、「脱原発と再生可能エネルギーで、自然とともに生きる国日本」を目指すという共通の目標に到達すれば、その時初めて、脱原発が可能になるのだと思います。――<「はじめに」より抜粋>

※本書は2013年5月に先行発売した電子書籍『原発の倫理学 古賀茂明の論考』の内容を大幅にアップデートした上で再編集したものです。