格差、尊厳、そして自由~アメリカにおける医療保険制度改革~
『現代ビジネスブレイブ グローバルマガジン』---「ニューヨークタイムズ・セレクション」より
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21世紀の労働者の尊厳とは何か

アメリカの連邦議会予算事務局が、オバマケアが雇用を損なうということを明確に拒否したいま、共和党の中にはこの件に関し、これ以上ウソをつくのはやめて、議論の矛先を変えた者もいる(決して全員というわけではないが)。彼らがこれまでの主張をやめ、医療保険改革のために労働時間が減ったのは、労働者自身の自主的な選択によるものだと認めたのは結構なことだ。しかし、それだって悪いことに変わりはない。なぜなら、共和党のポール・ライアンが言うように、彼らは「労働の尊厳」を失うからだ。

そこで、21世紀のアメリカで労働の尊厳が何を意味するのか考えてみたい。

労働の尊厳について抽象的な話をするのはいっこうに構わない。しかし、とてつもない報酬の格差があるにもかかわらず、労働者の誰もが同じ尊厳をもっているかのような話は、あまりにもばかげている。2012年に、トップ40人のヘッジファンドマネージャーとトレーダーの報酬は合計して167億ドルだった。これは40万人の一般労働者の所得に相当する。これだけの格差がありながら、労働の尊厳は同じだという話を信じられる者がいるだろうか?

実際、一般労働者の努力に対して、もっとも尊重の念がないように見えるのは、富の宝くじに当たった人々である。

ここ数ヵ月間、腹を立てた億万長者たちが次々に登場し、自分たちの優位性を認めるものとしての敬意がはらわれていない、それは当然はらわれるべきものだ、と延々と述べ立てている。たとえば投資家であるサム・ゼルは、「CNN マネー」サイトで、世間の「嫉妬」からトップ1パーセントの人々を擁護している。彼は、「トップ1パーセントはほかの人より一生懸命働いているし、社会のあらゆる面において、より大きな存在となっている」と主張する。

悪い言葉として流通した「受け取る権利」

共和党の政治家たちは、労働者を尊重していないもう1つのグループだ。

下院院内総務である共和党のエリック・カンターは、2012年のレーバーデー※1のツイートで、起業した人々を讃える悪名高き発言をした。おそらくカンター氏は、この投稿の反発によって叩かれたのだろう。最近、共和党の後退が見られるなか、カンター氏は自分の事業をもたないアメリカ人、つまり雇用されている人々に対して、尊厳を示すよう同僚に求めたと伝えられている。ということは、明らかに、これまでそうした尊重の念を示していなかったということだ。

全般的にアメリカの労働者は、金持ちや保守派の政治家が示す最低限の尊重の念と比べ、自身に対してより多くの価値を認めている。それでも何千万人もが、単に懸命に働くだけでは、経済的安定を得たり子どもにまともな教育を与えられないと身をもって知っている。彼らの多くは、先月、医療費負担適正化法が導入されるまでは、医療保険に加入していなかったり、医療保険を提供する仕事がなくなることを心底恐れていた。日常のこうしたレベルの葛藤を目の当たりにすれば、労働の尊厳を語ることはあまりに虚しい。

※1)訳注:9月の第1月曜日。日本のメーデーにあたる。