『物理のアタマで考えよう!』
素朴な疑問ほど奥が深い
ジョー・ヘルマンス=著 ウィープケ・ドレンカン=絵 村岡克紀=訳・解説

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単純に見える現象を、物理で考えよう!

 ヨーロッパ各国の物理学会の連合体「ヨーロッパ物理学連合」の会誌に連載された珠玉のコラム集。「人間がエンジンなら何ワット?」という疑問から始まり、日常のさまざまな現象を物理のアタマで考えていきます。あなたの「思い込み」や「直感」は、本当に正しいでしょうか?


刊行によせて

 ヨーロッパの科学の歴史は「素晴らしい」の一語であって、その輝きは今も衰えていません。ヨーロッパ経済の停滞にもかかわらず、むしろその輝きは増しています。ヨーロッパ物理学連合は同域内各国の物理学会の連合体で、それぞれの会員に助言をしたり討論の場を提供するという重要な役割を果たしてきました。

 その会誌が『Europhysics News(ヨーロッパ物理学ニュース)』で、小さいながらも刺激に富んだ出版物です。掲載されているのは、会議案内、各国の物理学会の開催状況やハイライト、さらには「特集」もあり、いずれも興味深い記事となっています。これらに加えて、過去約10年にわたって「Physics in Daily Life(日常生活の物理)」というコラムが掲載されてきました。本書はこのコラムを厳選したもので、博識とユーモアで読者をもてなしてくれます。テーマに的確に沿った素晴らしいイラストも添えられました。

 宇宙物理学、凝縮系物質科学、原子核物理学、その他何であれ、専門分野漬けになっている学者には、「日常での物理」など自分たちの研究テーマの深遠さに比べれば子供だましのように思いがちです。確かに、多元宇宙論の神秘や超伝導やエキゾチック原子の振舞いを解明するのに比べれば、近くの野鳥公園で見かけるアヒルが水面にV字型パターンを描いても、つまらないことに見えるかも知れません。しかし、子供や孫、妻、または友人紳士などにそんなことを言う前に、本書で述べられている「アヒルの航跡はなぜV形か」を読んでみてはいかがでしょうか。とにかくおもしろいのです。

 まだあります。太陽圏のすぐ外の境界の星間物質で泡状構造が最近発見されました。また太陽系は、局所的な泡構造に属しています。これらに知悉した宇宙物理学者でも、次のクリスマス子供パーティに専門家として招かれたら、「泡や風船を膨らませるときの不思議」を読んでから出かけるといいでしょう。

 物理の天才だったマイケル・ファラデーは、現在のわれわれを支えている電力産業の始祖と言えるでしょう。彼が物理と化学に関する一般向けの1時間講演で選んだテーマはロウソクの炎でした。彼はたぶん、本書の「ロウソクの巧みなメカニズム」で述べられているキーポイントを知っていたのでしょう。しかし、白状すれば私は知りませんでした。この話を読んだあと、私は夕食会でのテーブルスピーチで卓上のロウソクについて説明し、列席した紳士淑女の称賛の的になりました。そこに物理学者や化学者がいる場合にもそうでした(運悪く『Europhysics News』を読んでいる人が含まれていると、面目丸つぶれになったかもしれませんが)。

 話題を変えて、多くの人がSKI資金(Spending the kids’ inheritance:子供に相続させず使い切るお金)を使いクルーズ船で外洋に出かけますが、太陽が水平線に沈もうとするときに、噂に聞いていた「緑の閃光」を拝めるときがあります。タキシードを着て船上で得た新たな友人とデッキの手すりに寄りかかりながら、太陽が静かに消えていくときに起こること(実際に遭遇できるのは稀ですが)を物憂げに説明したとしましょう。しかし、その説明は間違いかも知れませんので、気をつけましょう。「日没はなぜ美しいか」をお読みになれば、正解が得られます。「海の水はなぜ青い?」かの説明も間違っているかも知れません。水の可視光での吸収線図を持参しておいて、最適なタイミングにポケットからさりげなく取り出して示されてはいかがでしょうか。

 ところで、タクシーの運転手さんは豊富な話題を惜しみなく提供してくれますし、その意見は一目置かれています。もう一歩進めて本書を読み込んで、「風呂での美声をカーテンが妨げるか?」のような珠玉の一編を伝えてみてはいかがですか。私たちがなぜ風呂で歌うのが好きかが記されています。バスルームに吊されているカーテンは音を吸収する性質がありますが、カーテンを開いていようがまとめて脇においてあろうが効果は同じです。それを運転手さんが聞いたら仰天することでしょう。きっかけに話が広がり、運転手さんが夜の街を流していて目撃した面白い出来事を聞かせてもらえるかも知れません。

 本書の内容はいかがでしょうか? 私が採点すれば100点満点です。本書をおすすめしたいのは物理の世界に興味のある方、そして、単純と見えて多くの場合にそうではない現象の真実に興味がある人すべてです。それだけにとどまらず、もう何冊か買ってご友人や親戚の方々に贈られるのもいいでしょう。

アーノルド・ウォルフェンデール
(「サー」の爵位を授与されたダーラム大学名誉教授、元ヨーロッパ物理学連合会長、イギリス王立協会会員)
 

著者  Jo Hermans(ジョー・ヘルマンス)
オランダ・ライデン大学名誉教授。大学教育と研究のキャリアに加えて、一般向けに科学をわかりやすく伝える活動も継続。現在、『Europhysics News』の科学編集長。2010年には、ベアトリックス女王から「ナイト」の爵位を授与される。
絵 Wiebke Drenckhan(ウィープケ・ドレンカン)
フランス・パリ郊外にある固体物理学研究所の研究員。泡や乳剤のような柔らかい物質の物理的性質について研究。余暇に科学的なイラストや漫画を描く。
訳者 村岡克紀(むらおか・かつのり)
九州大学名誉教授、工学博士。1940年宮崎県生まれ。1963年九州大学工学部卒業。九州大学教授、中部大学教授などを歴任。専門はプラズマ理工学
『物理のアタマで考えよう!』
素朴な疑問ほど奥が深い

ジョー・ヘルマンス=著
ウィープケ・ドレンカン=絵
村岡克紀=訳・解説

発行年月日:2014/2/20
ページ数:192
シリーズ通巻番号:B1852

定価:本体800円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)