佐藤優の読書ノート---過去3年の北方領土交渉について、大枠をとらえることができる作品。佐藤優著『元外務省主任分析官・佐田勇の告白――小説・北方領土交渉』

読書ノート No.92

佐藤優『元外務省主任分析官・佐田勇の告白――小説・北方領土交渉』徳間書店、2014年1月

2月8日にロシアのソチで行われた日露首脳会談によって、安倍晋三首相とプーチン大統領の個人的信頼関係は一層高まった。しかし、両首脳を下支えする外務官僚がしっかりしていなくては、北方領土交渉は前進しない。

過去3年の北方領土交渉について、大枠をとらえることができる作品を小説の形で書いた。まえがきに筆者(佐藤)の意図を端的に記したので、紹介する。

<通常、小説にまえがきが記されることはない。しかし、本書については、私がなぜ北方領土交渉について、あえて小説という形態を取ったのかについて、一言説明したほうがよいと考え、この文をしたためている。

領土は国家の礎(いしずえ)である。グローバリゼーションが進み、ヒト、モノ、カネが自由に移動するようになった21世紀においても、外交における領土の重要性はいささかも減じていない。自国の領土を実効支配できない国家は、一人前の国家とはいえない。日本の場合、わが国の領土である北海道の北方領土(歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島、国後(くなしり)島、択捉(えとろふ)島)がロシアによって、島根県の竹島が韓国によって不法占拠されている。北方領土と竹島の主権を回復しなければ、日本国家が完全な主権を回復したとはいえない。

ところで、日本が実効支配する沖縄県の尖閣諸島に対して、中国が露骨な野心を示している。2013年11月23日に中国国防省が沖縄県の尖閣諸島を含む空域に戦闘機が緊急発進する基準となる防空識別圏(ADIZ)を設定したと発表した。今般、中国が設定した防空識別圏は、既にわが国が設定している防空識別圏と一部重なる。これは日中武力衝突を招きかねない中国による危険な挑発行為だ。中国が防空圏設定を設定した目的は2つある。第1は尖閣諸島に対する領有権主張で、第2は東シナ海の資源開発に関して、中国の優越的地位を獲得することである。近未来に日中間で武力衝突が発生する危険も排除されない。日本にとって中国が潜在的脅威であるという見方は間違えている。われわれにとって中国は顕在化した現実的脅威である。

領土の観点から考察すると中国の脅威がはっきりする。韓国は、竹島を不法占拠しているが、その他の日本の領土に対する野心は持っていない。韓国社会の一部に対馬(長崎県)に対する領有権を主張する動きがある。しかし、韓国政府はそのような立場を取っていない。近未来に韓国政府が政策を転換し、対馬に対する領有権主張をする可能性もない。

また、ロシアが、北方領土以外の日本の領土、例えば北海道を要求する可能性もない。すなわち、日本がロシア、韓国との関係で、追加的に領土を失う危険はないが、中国との関係では、尖閣諸島を奪取される現実的な危険があるのだ。それならば、中国からわが尖閣諸島をいかに防衛するかを、日本外交の中心に据えなくてはならない。・・・・・・

このテーマについて深く知るための「連読」3冊
・佐藤優『国家の罠――外務省のラスプーチンと呼ばれて』新潮文庫、2007年
・斎藤勉/内藤泰朗『北方領土は泣いている――国を売る平成の「国賊」を糺す』産経新聞出版、2007年
・末次一郎『「戦後」への挑戦』オール出版、1986年(※リンクは1984年に出版された書籍です)
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