古賀茂明 「脱原発の機運はしぼんでいない」---東京都知事選挙特集
古賀茂明と日本再生を考えるメールマガジンVol081より
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原発即ゼロが総合的な政策であることが伝えられなかった

細川・小泉連合が掲げる原発即ゼロは、単に、「原発が危ないから」、「放射能が怖いから」、「核のゴミが処理できないから」原発を止めるという単純な考え方ではありません。彼らの思想は、それをはるかに超えるものです。そのポイントは、このメルマガでも何回も取り上げましたし、拙著原発の倫理学』でも繰り返し述べました。

成長の柱となるはずのエネルギー分野で、原発依存に戻ろうとする安部政権。それに対して、「原発ゼロで成長を」と訴えた元総理連合は、原発を止めて、今、世界中の企業が目指す「原発から自然エネルギーへの転換」競争の中で、日本が主導権を取り、国際競争力を持った産業を育てようと訴えました。その意味するところは、もちろん、自然エネ分野での投資を誘発し、雇用と所得を生み、それが、福祉の財源となっていくという成長と雇用と福祉の持続的な好循環モデルにあります。

さらに、それは、地方での風力、太陽光、バイオマスの急速な展開によって、大都市だけでなく、過疎地を含む地方の発展にもつながる理想的な成長モデルとなります。鉄とコンクリートとプラスチックで自然を破壊する大量生産・大量消費の自然収奪的資本主義から、自然を生かし、自然とともに生きる、日本らしい、世界の模範となる新たな成長パターンの創造を目指す壮大な哲学なのです。つまり、原発ゼロは、エネルギー政策にとどまらず、成長戦略でもあり、雇用戦略でもあり、福祉政策でもあります。残念ながら、今回は、それを十分に都民に伝えることができなかったということでしょう。

細川・小泉連合が訴えた「原発ゼロで新たな夢のある成長を」という哲学は、これまで、「苦しいけれど原発をなくすのかどうか」という発想から抜け出せなかった日本人に対するまったく新しい問いかけでした。しかも、それが、保守本流の元総理二人から投げかけられたということには、非常に大きな意味があったと思います。

脱原発の機運はしぼんでいない

では、これからの原発政策はどうなるのでしょうか。

かつての自民党政権なら、今回の選挙結果を我田引水して、「民意は再稼動を認めた」として、宣伝に使ったでしょうが、今の安倍政権はそれほど稚拙ではありません。元々、今回の選挙で即ゼロ派が勝ったとしても原発推進の旗は降ろさなかったでしょうし、逆に、勝ったからといって、悪乗りして、むやみに勝ち誇ったりはしないでしょう。高支持率の中、そんな必要はないからです。

既定路線どおり、「規制委員会が安全だとする原発は、地元の同意を得て動かす」という態度で臨むと考えられます。もちろん、何も言わなくても、外野席で、原子力ムラに支配されている一部の全国紙やテレビ局が、「原発ゼロは否定された」という雰囲気を作ってくれます。そこに黙って乗って、あとは粛々と再稼動を進めるだけだということになりそうです。

それでは、このまま、脱原発の流れは潰えてしまうのかというと、そうではありません。

今回の選挙戦で、原発ゼロの候補が大敗したことが持つ意味をどう考えるかという点について、興味深い数字があります。複数の出口調査の原発政策に関する回答で、原発即ゼロを支持する人が、4分の1前後いたということです。

これまで、即ゼロを主張するのは、熱心に反原発運動に参加している人くらいだというのが、一般の理解でしたが、これが、4分の1まで急激に上昇したというのは、ある意味驚きでした。段階的に減らすべきだという層も半分程度いるので、確実に脱原発の機運は高まったというのが実態ではないでしょうか。

特に、小泉・細川連合が、「今、原発はゼロですよ」とわかりやすく語りかけたことは、それまで、そうした事実を明確に認識していなかった人々に、即ゼロの実現性を強く訴える結果になったと考えられます。保守本流の二人が即ゼロを唱えたことで、これまで夢物語でしかなかった即ゼロが具体的な選択肢に格上げされたことの意味は大きいと思います。

今後、この層を拡大していくことは、実はそんなに困難なことではありません。既に原発ゼロで、かなりの期間が経過しています。その期間が長くなればなるほど、ゼロでも行けるという認識が広がることは確実でしょう。

今回は、安倍人気で舛添候補が勝ちましたが、逆に言えば、安倍人気に翳りが出れば、一気に即ゼロの機運が拡大する可能性があります。元々、小泉元首相らの視野には、冬の勝負という絵は入っていなかったはずです。このメルマガで予想していたシナリオも、春以降の勝負でした。

選挙に「たら、れば」は禁物ですが、この選挙が5月以降だったらどうだったでしょうか。4月に消費税が上がり、物価はその分確実に上がります。一方、賃金はいまだにほとんど上がっていません。実質で見れば、4月以降の所得は大幅なマイナスになるのは確実です。生活苦の実感が、低・中所得層を中心に広がると、アベノミクスへの期待も剥げ落ちてくるでしょう。

さらに、円安で輸出が伸びるというシナリオも、実は輸出数量はマイナスだという実態もあらわになってきています。そうなれば、ますますアベノミクスへの信頼が落ちてきます。安倍政権支持の最大の要因である好景気への期待に翳りが出れば、政治の雰囲気も大きく変わる可能性があるのです。

そんな中、夏前には、いよいよ原発の再稼動の結論が近づきます。国民の多くは再稼動に反対ですが、景気をよくしてくれる安倍政権がやるのなら、そんなに大反対はしない、というのが実態ではないでしょうか。しかし、アベノミクスの看板に偽りありとなれば、再稼動反対の声が大きなうねりとなる可能性もあります。しかも、それが、ただの脱原発ではなく、成長戦略としての脱原発だとなれば、さらに支持層が拡大するでしょう。即ゼロ戦略が、アベノミクスに対抗する有力な成長戦略として位置づけられるのです。・・・・・・