官々愕々 成長戦略としての「原発即ゼロ」

東京都知事選挙で、自民・公明両党が支持する舛添要一氏が圧勝した。

その最大の勝因は安倍人気だ。安倍政権への支持率は50%を超える。舛添氏はこの地合いをそのまま生かし、手堅く自公両党の支持層と無党派層のうちの安倍人気も取り込んで順当勝ちした。舛添人気で勝ったわけではない。

共産党・社民党の支持を得た宇都宮健児候補が2位と健闘したのは、組織票に加えて福祉政策でのばら撒きに期待する無党派層をうまく取り込んだということだろう。

一方、原発ゼロを掲げて戦った細川護煕候補は、小泉純一郎元総理の応援を得て街頭演説では大群衆を集めたが、結果は宇都宮候補にも及ばなかった。

一般には、脱原発ワンイシューで戦ったのが失敗だったという分析がなされているが、これは正確な見方ではない。ワンイシュー選挙だというのは、実は、事実ではなかった。自民党とそれに支配される多くのマスコミのキャンペーンによって作られた誤ったイメージである。

原発ゼロを主張する細川氏は、景気、雇用、福祉、防災には関心がない候補だ、というレッテルを貼られた。しかし、それは明らかに嘘である。細川氏の公約には、福祉も防災も五輪も掲げられていた。

細川・小泉連合が掲げる原発即ゼロは、単に、「原発が危ないから」、「核のゴミが処理できないから」原発を止めるという単純な考え方ではない。彼らの思想は、それをはるかに超えるものである。

都知事選挙が終わると同時に、日本の貿易赤字が3年連続、しかも過去最大になったと報じられた。貿易赤字自体はそれほど驚く話ではないが、実はこのニュースも原発ゼロ戦略と密接な関係にある。

自動車以外に伸びる産業がない。だから、円安になっても輸出が増えず、貿易赤字が拡大する。成長の柱となるはずのエネルギー分野で、原発依存に戻ろうとする安倍政権。そこには何の展望もない。

それに対して、「原発ゼロで成長を」と訴えた元総理連合は、原発を止めて、いま世界中の企業が目指す「原発から自然エネルギーへの転換競争」で日本が主導権を握り、国際競争力のある産業を育てようと主張した。自然エネ分野での投資を誘発し、雇用と所得を生み、それが、福祉の財源となっていくという「成長と雇用と福祉の持続的な好循環モデル」だ。

さらにそれは、地方での自然エネの展開が過疎地を含む地方の発展につながる理想的な成長モデルとなる。原発ゼロは、成長戦略・雇用戦略であり、福祉政策・地域政策でもある。そのことが都民には十分に伝わらなかった。

原発ゼロをワンイシュー選挙だと決め付けた自民党とマスコミの宣伝に負けたということになる。その自民党の選挙戦略のお先棒を担いだのが民主党だ。彼らは、原発だけではダメだ、福祉も雇用も訴えなければということを自らマスコミに話し、自民党の宣伝を結果的に補強することになった。

細川・小泉連合が訴えた「原発ゼロで新たな夢のある成長を」という哲学は、これまで、「苦しいけれど原発をなくすのかどうか」という原発の是非だけを問い続けた脱原発とは全く次元が違う。新たな成長の仕方、新たな生き方を日本の国民に問いかけたのだ。複数の出口調査で、原発即ゼロを支持する層が、一気に投票者の4分の1にまでなった。保守本流の二人が即ゼロを唱えたことで、これまで夢物語と見られていた即ゼロが具体的な選択肢に格上げされたことを示している。

「原発即ゼロの成長戦略」の戦いはこれからだ。

『週刊現代』2014年3月1日号より

原発の倫理学(税別価格:1400円)
話題作『原発ホワイトアウト』著者・若杉冽氏推薦! 「霞が関には古賀さんを隠れキリシタンのように慕っている官僚たちがいる。原発の裏も表も全部わかる必読書」

原発は「倫理的」に許されないエネルギーだという議論をすると、それは「感情的」あるいは「主観的」な議論であるというレッテル張りをされる傾向があります。経済論や技術論は受け入れられても倫理論は受け入れられないのが現状だと言ってよいでしょう。しかし、倫理の問題は、経済や技術の分野でも非常に重要な問題です。二人の元総理(小泉氏と細川氏)が期せずして脱原発を「人の生き方の問題」「倫理の問題」として語り始めたことは、極めて重要な意味があります。私が小泉氏や細川氏に期待するのは、大きな哲学、「脱原発の倫理観」を国民に提示し、国民的大議論を巻き起こすことです。議論の末、国民の大多数が新しい日本の生き方、「脱原発と再生可能エネルギーで、自然とともに生きる国日本」を目指すという共通の目標に到達すれば、その時初めて、脱原発が可能になるのだと思います。――<「はじめに」より抜粋>

※本書は2013年5月に先行発売した電子書籍『原発の倫理学 古賀茂明の論考』の内容を大幅にアップデートした上で再編集したものです。