科学技術と一般読者をつなぐ科学ジャーナリズムの役割
STAP細胞に関する論文を掲載した英科学専門誌「ネイチャー(Nature)のスクリーンショット

2014年1月に理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(兵庫県神戸市)の細胞リプログラミング研究ユニット(研究ユニットリーダー・小保方晴子博士)が開発した「STAP細胞(刺激惹起性多能性獲得細胞)」に関する論文を掲載したことでも話題になった「ネイチャー(Nature)」は、1869年に英国で創刊された伝統ある世界的な週刊科学雑誌。科学技術の幅広い分野にわたって、査読を経た研究成果を掲載してきました。

また、若手科学者のメンタリングで顕著な成果をあげたベテラン科学者を表彰する「Nature Awards for Mentoring in Science」を2005年に創設したり、欧州の若手科学者を対象とする独エッペンドルフ社(Eppendorf)の科学技術賞「Eppendorf Young European Investigator Awards」をサポートするなど、科学技術の発展や科学者の育成・支援にも、積極的に取り組んでいます。

一流大学の研究成果を採り上げる、科学専門メディア「Futurity」のスクリーンショット

しかしながら、科学に関するトピックスを一般に伝達するジャーナリズム、すなわち科学ジャーナリズム(Science Journalism)の全体を見渡すと、けして恵まれた状況とはいえません。近年、ネイチャーのような科学専門誌は、減り続け、米コロンビア大学ジャー ナリズム大学院が発行する「コロンビア・ジャーナリズム・レビュー(Columbia Journalism Review)」 によると、1989年時点で34誌あった科学専門週刊誌は、2012年時点で19誌にまで減少しています。本来、科学は、今後数十年にわたって、私たちの 生命や日常生活に大きな影響を及ぼす可能性がある重要なテーマにもかかわらず、既存メディア領域での情報チャネルは、狭まりつつあるのが現状なのです。

科学ジャーナリズムにおけるメディア変革の予兆

そこで、紙雑誌を中心とする既存メディアに代わるものとして有力視されているのがオンラインメディア。2006年に開設された科学専門サイト「サイエンス ブログ(ScienceBlogs)」は、生命科学物理学など、科学にまつわる様々なブログが集められています。また、1995年から運営され、現在は iOS対応アプリAndroid対応アプリとしてもリリースされている「サイエンスデイリー(ScienceDaily)」や、スタンフォード大学・ イェール大学・カリフォルニア工科大学など、米国・英国・オーストラリアの一流大学の研究成果を扱う「Futurity」なども、最新の科学技術の研究成果を伝えるメディアとして挙げられます。

科学ジャーナリズム(Science Journalism)の本質的な役割は、科学に関するレポートを一般の人々に“伝達”すること。数多くの専門用語を用い、細部にわたって専門的な記述が続く科学者の論文を、情報の正確さを担保しながら、専門知識のない人々にもわかりやすく、理解できるように伝えることは、たやすいことではありません。科学ジャーナリズムは、ジャーナリズムの中でもとりわけ専門性が高く、スキルを要する分野です。

科学・技術・環境・健康の分野で活躍する専門ジャーナリストのためのグローバル機関「ワールド・フェデレーション・オブ・サイエンスジャーナリスツ(WFSJ・World Federation of Science Journalists)」が2013年6月にフィンランド・ヘルシンキで開催した第8回世界カンファレンス「WFSJ2013」では、マスメディアから、科学専門出版社、フリーランスのジャーナリスト・編集者・ライター、学生まで一同に会し、ネットワーキングと学びの場として活用されています。

このようにみていくと、科学ジャーナリズムの分野でも、メディア変革の時代を迎えているように感じます。日進月歩の科学技術が私たちの手の届かない存在に なってしまう前に、本来、担うべき役割を見つめ直し、次世代人材の育成やメディアの再編など、その役割を果たすために必要な施策を今から積極的に講じてい くべきだと思います。

WFSJ2013のカンファレンス会場の様子。Creative Commons: Some Rights Reserved. Photo by WFSJ2013
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