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中日新聞『日米同盟と原発』が明らかにした「日本の原子力開発史」と「再稼働推進論」の背後にあるもの

『日米同盟と原発』(東京新聞)という本が昨年11月末に発行された。中日新聞社会部が中心となって2012年8月から新聞2ページ分を10回連載したものに加筆した著書である。その内容が興味深い。戦後の日米関係と絡めながら日本の原子力発電の開発の歴史が時系列的に平易な言葉で分かりやすく書かれており、それを通じて一気に昭和史が頭の中に入ってくる。

中日新聞社会部取材班キャップの寺本政司氏(筆者撮影)

内容だけでなく、取材手法も、ジャーナリズムに携わる者にとって大変興味深い。すべてニュースソースを明かした実名報道であり、100人以上に取材している。故人の取材については家族や元秘書に直接会って証言を聞き取り、日記にも丹念に当たって、当時の状況を克明に描き出した。

また、国会議事録やワシントン公文書館、米大統領図書館などの資料も緻密に調べあげている。記者が足で稼いでいる姿が浮かんでくる。社会部取材班キャップの寺本政司氏は「そこまで調べているなら、という取材姿勢に共鳴していただき、何十年も極秘にしていた資料をくれた方もいた」と振り返る。

こうした取材手法もあって、難しいテーマでありながらも、読めば一気に頭に入ってくる内容に成し得ているのであろう。そして同時に、記事の説得性も高めている。

2月9日に投開票される東京都知事選挙では、「脱原発」も大きな争点となっているが、単純な議論や世の中の雰囲気に流されての原発に賛成か反対かではなく、原発について深く考え、議論するための材料になる良書である、と筆者は感じた。

冷戦下、見せかけの「平和利用」として始まった原発開発

本書の内容はタイトル通り、日米同盟の歴史と日本が原子力発電に取り組むようになった経緯を絡ませたノンフィクションである。ストーリーは、戦前・戦時中の理化学研究所の仁科芳雄博士による「二号研究」と呼ばれた陸軍の原子力爆弾開発の話に始まる。

この部分は、伏線でもある。なぜなら、本書の主眼は、東日本大震災によって制御不能となった福島原発の大事故が起きた今でも、日本が原子力発電にこだわり続ける理由を、単に安い電力供給が求められているからではなく、原爆の潜在的開発能力の保有・維持することにあると捉えている点にあるからだ。

日本の原子力開発に多大な影響を及ぼしたアイゼンハワー(右)とニクソン(左端)の両大統領(1952)[PHOTO]Getty Images

そして戦後の日米の安全保障という枠組みの中で、日本は原発の開発に踏み出したと位置付けている。安全保障の考え方は当然ながら、冷戦、ポスト冷戦、中国の軍事力の増大など世界政治が置かれている状況の変化によって変わる。本書では、その点も押さえながら原発開発に取り組む日本の姿勢の変化も重ねている。

1953年、米国のアイゼンハワー大統領が核の平和利用推進について国連で歴史的な演説を行ったことを受け、翌年の1954年3月、日本では衆院予算委員会で戦後初の原子力予算が議員提案された。終戦から10年も経っておらず、忌々しい戦争の記憶が完全に消え失せていない状況の中、世界で唯一の被爆国である日本にとって、原子力という言葉自体がタブーであったかもしれない時期に「政治主導」で、日本の原発開発は踏み出した。

原発開発を「政治主導」した一人、中曽根康弘元首相[PHOTO]Getty Images

日本学術会議の重鎮らは、国会に押しかけ、「学界軽視だ。予算がついても着手するのは難しい」と撤回を求めたことが本書で触れられている。政治主導を引っ張った一人が後に首相まで上り詰める中曽根康弘氏である。

日本が原発開発に踏み出した背景について、本書は、米ソの冷戦が進展し、ソ連が核実験に成功、同時に共産主義国に原発技術を提供開始し始めたため、米国の核独占の優位性が崩れつつあったことが影響した、と指摘している。

アイゼンハワー大統領図書館に保管されている、国防総省の心理作戦コンサルタントによる報告書には「原子力が平和と繁栄をもたらす建設的な目的に使われれば、原子爆弾も受け入れやすくなるだろう」との記述が残っている。極秘メモによると、ダレス国務長官も「今の国際世論を考えると原爆は使えないが、この世論を打ち消すためにあらゆる努力をすべきだ」と述べたという。

要は、この米国の「見せかけ」の核の平和利用に呼応する形で、日本の原子力予算は動き始めたのである。筆者も、冷戦の真っ最中、共産主義の防波堤であった日本が核に対するアレルギーをなくしてほしいと米国が考えていたのだろうと受け止める。

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