官々愕々 時代遅れの「エネルギー戦略」

2月1日に新しい会社が発足する。日立製作所と三菱重工業の火力発電システム事業を統合した新会社「三菱日立パワーシステムズ」だ。

面白いことに、原発推進派の新聞社2社が、このニュースを大きく扱った。

火力発電事業は、日立、三菱両社にとって、歴史的にも、会社の中で占める地位でも、極めて重要な部門だ。火力発電で欧米の大手重電メーカーに大きく遅れを取った日本の重電2社が手を結んで、「追撃の狼煙を上げた」のだから、どうしても判官びいきで大きく報道したくなるのだろう。さらに、両社とも、安倍政権の中身がない成長戦略のうちで、唯一と言ってもよいほどの重要な柱、「原発輸出」を担う企業だけに、応援に力が入るのかもしれない。

しかし、その応援記事に掲載されたグラフが、安倍政権と日本の重電メーカーがいかに世界の潮流から遅れているのかを如実に示しているのを見て、思わず笑ってしまった。

そこには、欧米の大手火力発電メーカー3社、GE(米)、シーメンス(独)、アルストム(仏)と日本の日立、三菱、東芝3社の原発、火力、再生可能エネルギー各々の売上高が棒グラフで示されている。欧米3社が1・5兆円から3兆円弱の総売り上げであるのに対して、日本の3社は、いずれも1兆円未満と大きく離されている。火力発電だけとると、3社とも欧米企業の数分の1でしかない。だから、このグラフで、日立、三菱が火力部門を統合して、追撃態勢を整えることに意味があると言いたかったのだろう。

しかし、そのグラフは、そんなことよりもはるかに重要な2つのことを示していた。

第一に、欧米3社の原発の売り上げは、ゼロないしほんのわずかしかなくなっていることだ。日本では、原発は安いというのが常識のように語られるが、世界では全く逆だ。GEのカリスマ経営者であるイメルト会長が、'12年に「原子力は、高くつきすぎて、正当化するのが非常に難しい」と述べたことは海外メディアで大々的に報道された。シーメンスのレッシャー社長も'11年に原発事業からの完全撤退を宣言した。昨年11月には、世銀総裁が、世銀は原子力への投資は行わないと宣言している。原発は時代遅れなのだ。

第二に、欧米3社は、2000億から6000億円程度の売り上げを再生可能エネルギーで稼いでいるのに、日本の3社は、三菱重工がほんのわずかの売り上げがあるものの、日立、東芝は、その売り上げが、グラフ上では見えないくらい少額だということである。

実は、世界では、原発による発電量は2000年代に入ってほぼ頭打ちで減少傾向すら見せているのに対して、再生可能エネルギーの成長は加速度的に伸びていて、原発を発電量でもはるかに上回る状況になっている。日本では考えられないようなことが起きているのだ。従って、世界の有力メーカーは、将来性のない原発事業から手を引いて、再生可能エネルギー事業に経営資源を集中している。

一方、安倍政権は、陳腐化した原発事業に命をかけて世界への売り込みに精を出している。火力発電事業の強化もいいが、最大の成長分野である再生可能エネルギーへの投資で今こそ挽回を図らないと、日本は永遠にエネルギー産業での後進国となってしまうだろう。

小泉純一郎元総理が言う「原発なしでも成長できるというグループと原発がなければ成長できないというグループの戦い」は、世界では、とっくの昔に決着済みなのに、都知事選で争っている日本。何とも情けない話ではないか。

『週刊現代』2014年2月15日号より

原発の倫理学(税別価格:1400円)
話題作『原発ホワイトアウト』著者・若杉冽氏推薦! 「霞が関には古賀さんを隠れキリシタンのように慕っている官僚たちがいる。原発の裏も表も全部わかる必読書」

原発は「倫理的」に許されないエネルギーだという議論をすると、それは「感情的」あるいは「主観的」な議論であるというレッテル張りをされる傾向があります。経済論や技術論は受け入れられても倫理論は受け入れられないのが現状だと言ってよいでしょう。しかし、倫理の問題は、経済や技術の分野でも非常に重要な問題です。二人の元総理(小泉氏と細川氏)が期せずして脱原発を「人の生き方の問題」「倫理の問題」として語り始めたことは、極めて重要な意味があります。私が小泉氏や細川氏に期待するのは、大きな哲学、「脱原発の倫理観」を国民に提示し、国民的大議論を巻き起こすことです。議論の末、国民の大多数が新しい日本の生き方、「脱原発と再生可能エネルギーで、自然とともに生きる国日本」を目指すという共通の目標に到達すれば、その時初めて、脱原発が可能になるのだと思います。――<「はじめに」より抜粋>

※本書は2013年5月に先行発売した電子書籍『原発の倫理学 古賀茂明の論考』の内容を大幅にアップデートした上で再編集したものです。