「公共放送」の意義はどこに?籾井会長続投で「政権の広報機関化」が加速するNHK

原口一博・元総務大臣(民主党)が1月31日の衆議院予算委員会で質問に立ち、安倍晋三政権べったりの立場を鮮明にしている籾井勝人NHK新会長に退任を迫った。しかし、本人は続投に意欲を示し、同政権と同政権に再任された浜田健一郎経営委員長(全日空総研会長)も罷免要求を無視、責任追及は不発に終わった。

今後、これに勢いを得て、NHKの「安倍政権の広報機関化」は加速しそう。籾井会長が、自身の右腕となるNHK副会長職に、NHKプラネットの堂元光専務を抜擢する人事案を強行する見通しのためだ。堂元氏はNHK政治部の出身で、官房副長官時代の安倍晋三氏におもねって従軍慰安婦関連番組を改変した海老沢勝二・元会長一派の流れを汲む人物である。

NHKに対し、不偏不党の立場から政府や政策のチェックを期待するのは、これまで以上に難しくなる。中立性を担保するため、税金とは別に、受信料というNHK運営のための公的負担金の支払いを義務付けられている国民にとっては踏んだり蹴ったりの状況だ。

報道と政府の関係への無理解を露呈した国会答弁

今回の騒動の発端は1月25日、就任後最初となったNHK会長記者会見における籾井氏の放言三昧だ。

記者に問いただされて言及した従軍慰安婦問題は、「日韓の政府間で解決済み」と的外れではない発言もあった。しかし、根拠も示さず独、仏、蘭などを名指しして、「どこの国にも(従軍慰安婦問題が)あった」と決めつけるなど乱暴な部分が目立った。

さらに、特定秘密保護法について「決まったものはしょうがない」、国際報道に関し「政府が右というものを、左ということはあり得ない」などと失言を連発した。これらは、大きく国論が割れている問題に関し、中立の立場から、様々な見解を幅広く報じることを放送法で義務付けられているNHKのトップとして、明らかに資質を欠いた発言と受け止められた。

筆者は、昨夏から、安倍政権が民主党政権時代に任命された松本正之・前会長の首のすげ替えを睨んで、会長の任命権を持つ経営委員の入れ替えを進めようとしている事実をはじめ、様々な懸念をいち早く指摘してきた。その中には、籾井氏の資質の問題も含んでいた。

そんな筆者でさえ、25日の発言は、開いた口が塞がらない放言のオンパレードだった。例年、3、4月はNHKの経営計画や予算が国会で議題に上る時期だけに、与野党の勢力が伯仲していれば、予算の国会承認と引き換えに、籾井氏が会長辞任を迫られても何ら不思議のない問題発言だったのだ。実際、過去には、本人が退任の意向を固めていたのに、首の差し出し要員として続投を余儀なくされた会長もいたほどだ。

現在は自民党が衆参両院で圧倒的な多数を維持しており、籾井氏の会長の座は安泰とはいえ、NHK執行部を監視する立場の経営委員会はさすがに放置できないと考えたのだろう。

別に候補者がいながら、新聞のスクープによって、その人物の任命に国会同意を得るのが困難になり、急転直下、安倍政権下でも続投することになった浜田経営委員長は、28日の経営委員会で籾井会長に厳重注意を与え、猛省を促した。この経営委員会では、籾井会長が堂元氏を副会長に登用する人事案の承認を求めたものの、浜田委員長が保留し、まず放言騒ぎの収拾を優先する判断をしたのだった。

そんな中で開かれたのが、冒頭の原口・元総務相による籾井、浜田両氏の参考人招致だった。

だが、籾井氏の答弁は、聞くに堪えないものだ。従軍慰安婦発言を「私的な発言」であり、すでに取り消していると説明。「私の個人的な意見を放送に反映させることはない」と繰り返すばかりで、原口氏が矢継ぎ早に繰り出す質問に、ほとんど、まともに答えなかった。

極め付きは、放送法の「国際放送の要請放送」に関する規定を問われた際の回答だ。同法では、政府の要請の是非を判断する余地をNHKに与えるため、この件について、「義務」ではなく「努力義務」と規定しているにもかかわらず、籾井氏は「お受けする義務というか、必要がある」と発言した。

この発言は、報道機関NHKと政府の間には、保たなければならない緊張関係が存在することをまったく理解していない実態を満天下にさらすことになった。

加えて、就任会見の際に、「決まったものはしょうがない」とか「政府が右ということを左というわけにはいかない」と失言した点について、「これらも私的見解か」と原口氏に質されたことには答えず、「赤と白というべきだった」と回答。

ここでも、NHK会長としての発言の趣旨が問題にされていることが理解できず、自身の政治的スタンスを抽象化することでお茶を濁せると勘違いしている籾井氏の認識のおかしさが浮き彫りだった。

原口氏は、本人に責任を質したほか、浜田氏に対しても「今からでも遅くない。(籾井氏の)罷免を考えませんか」と追及した。さらに、安倍首相にも、籾井氏を推した経営委員を選んだ任命責任を質している。しかし、弱小野党の議員の質問とあって、そろって、あっさりかわされた。

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