本/教養

読書人の雑誌『本』
『分子からみた生物進化 DNAが明かす生物の歴史』著:宮田隆
分子からみた生物進化

生物をよく知るには進化を理解することが大切である。生物は歴史的存在なので、生物がなぜそういう形を持ち、行動をとるのか、といった、〝why〟に答えようとすると、どうしても進化的視点に立って考えることが必要になる。

例えば、なぜキリンの首は長いのか、という問いに答えようとすると、祖先の首も長かったのであろうか。あるいは、祖先では首を何に使っていたのか、といったことを知る必要がある。進化遺伝学の大御所テオドシウス・ドブジャンスキーは、「進化の視点がなければ、生物学の知識は意味をなさない」といって、進化を背景に持った生物学の重要性を説いている。

進化を語る上で、過去に生きた生物の化石は重要な直接証拠である。しかし、化石は容易に手に入るわけではないので、どうしても少ない証拠で進化を論じなければならない。

今から半世紀ほど前に、DNAや遺伝子あるいはタンパク質といった分子から生物進化を研究する、「分子進化学」と呼ばれる新しい進化の研究分野が誕生した。なぜ、分子で進化の研究ができるのか?それは、現在生きている生物のDNAは、遺伝情報と同時に、進化の情報も持っているからである。DNAは「分子化石」なのだ。

進化を分子で考える利点は、進化を論じる上で必要な証拠が、生化学的手段で比較的簡単に得られ、かつそのデータには客観性があるということである。今や、生物からDNAを取り出すことは簡単である。それどころか、ネアンデルタール人の化石からDNAをとることさえできる。その化石DNAから、われわれ現代人とネアンデルタール人は、およそ五〇万年前に共通の祖先から枝分かれしたことまでわかるようになっている。

では、なぜ、DNAから進化がわかるのか。どのようにして進化の情報を引き出すことができるのか。このたび上梓する拙著『分子からみた生物進化』(講談社ブルーバックス)では、分子進化学の基本的概念や方法をわかりやすく解説している。

目で見てそれとわかる「形態」レベルの進化は、ダーウィンの自然選択説で説明される。一方、「分子」レベルでは、淘汰に有利でもなく、不利でもない、中立な変異が偶然に集団に広まった結果、進化が起こる。これが木村資生先生の「分子進化の中立説」の主張だ。木村先生もいうように、二つのレベルの進化をどう橋渡しするのか、それは、今後の分子進化学に残された大きな課題である。拙著『分子からみた生物進化』では、この問題に関して、筆者の研究グループがこれまでに行ってきた研究の一端を紹介する。