サマンサは本当に誕生するだろうか?

先日、アカデミー賞の作品賞など5部門にノミネートされた映画「her」。既にご存じかもしれないが、「モバイル端末に搭載されたAI OS(人工知能を備えた基本ソフト)に対し、ユーザー(つまり人間)が恋に落ちる」という筋立てだ。昨年12月に劇場公開された米国では、「シナリオが非常によく出来ており、ほとんどありそうもない話ながら、映画を見ているうちに、『いずれ本当に起こるかもしれない』という気持ちになってくる」との評判だ(日本での公開は今年6月の予定)。

映画の設定は、近未来のロサンゼルス。登場人物たちは、現在のスマートフォンの進化形とおぼしきモバイル端末を使いこなしている。主人公の男性、セオドアはある日、商品広告で知った「サマンサ」というAI OSを購入し、それを自分のパソコンとモバイル端末にインストールして使い始める。

驚くほど高性能のサマンサ(女優スカーレット・ヨハンソンが声だけで演じている)は、セオドアの忙しいスケジュールを巧みに管理し、(パソコンの記憶装置などにたまった)雑多なドキュメントをきれいに整理するなど、与えられた仕事を完璧にこなす。そればかりか彼の悩みや過去に受けた心の傷などを理解し、精神的コンパニオンとして彼を支え、(セクシーな声で)時には笑わせ、時には励ましてくれさえする。こんなサマンサに対し、セオドアはついに恋に落ちてしまう。

専門家は「できる」と

脚本を書いたスパイク・ジョーンズ監督自身は否定しているが、この作品がアップルの「Siri」やグーグルの音声検索など、最近のスマホに搭載されている「音声アシスタント」をモチーフにしているのは、ほぼ間違いないと思われる。これに呼応するように、グーグルの技術開発責任者ピーター・ノービグ氏など、多くのIT専門家が口を揃えて「(現在の音声アシスタントの開発状況等から見て)サマンサのような本格的AIは遠からず実現される」と予想している。

●" How Real is Spike Jonze's 'Her'? Artificial Intelligence Experts Weigh In" THE WALL STREET JOURNAL, Jan 24, 2014

彼ら専門家の意見を総合すると、こうなる。

「人間と全く同じ、本物の感情や意識を持った、いわゆる『強いAI』が実現されかどうかは分からないし、仮に実現されるとしても相当先になるだろう。しかし、サマンサのように事務的な作業をテキパキとこなし、ユーザー(人間)とジョークなども交えた洗練された会話をこなす程度の疑似人格であれば、そう遠くない将来、実現される」

また、そうした存在に対し、ユーザー(人間)が恋愛感情を抱くのも「技術的には、それほど困難なハードルとは思えない」という。

その理由は、人間が自分で自分を欺く生物であるからだという。もっともらしい意見である。しかし問題は現在のユーザーが本当に、そういったものを望んでいるかどうかだ。グーグルにしても、アップルやマイクロソフト、あるいは日韓メーカーにしても、ある程度まで技術に左右されるにせよ、結局はユーザーの動向や嗜好を見定めながら事を進めていくだろう。

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