M&A「のれん」非償却へ経産省も方針転換?グローバル化時代に求められる「会計基準の国際化」とは

〈M&A、企業の負担軽減 会計処理見直し 政府検討、再編後押し〉

1月27日付の日本経済新聞朝刊は、1面トップでこうデカデカと報じた。企業がM&A(合併・買収)を行った際の会計処理を欧米式の基準に合わせるという内容で、企業がM&Aをしやすくするとしている。「会計基準を策定する民間団体に要請し、新制度を6月に作る成長戦略に盛り込むことを目指す」と記事は報じていた。

この記事の背景には一部の企業の切実な声がある。日本の会計基準では、買収先企業の資産額と買収額の差である「のれん代」を一定期間で費用として計上することが義務付けられている。つまり買収後、数年間の利益を圧迫するのだ。

一方で国際会計基準IFRSや米国基準では「のれん」の費用計上は行わず、実際に買収した事業の価値が下がった場合に評価し直して損失処理する。つまり、買収が計画どおりなら、利益を圧迫するような費用は生じない。

この会計基準の違いが、国際競争する企業にとって大きな障害になっているのだ。巨額のM&Aを外国企業と競った場合、費用計上での業績悪化を気にしなければならない日本企業が不利になるからだ。大型買収に乗り出している新興の上場企業などの間で不満が強い。日経新聞の記事もこうした声を取り上げたものだった。経済産業省の有識者会議で、記事が載った同じ日に一部の経営者が提言することになっていた。

金融庁は静観「あくまで有識者会議の意見」

だが、新聞記事には重大な欠陥がある。有識者会議で報告したからといって、すんなり基準変更が決まるわけではないのだ。

日本の会計基準は、民間の専門家からなる独立した機関である企業会計基準委員会(ASBJ)で決められる。民間機関で決めるのは世界共通のルールで、基準が恣意的に決められないように独立性が保たれている。見出しにあるように「企業の負担軽減」を狙った基準改正などあり得ない。会計基準づくりは対象の企業の実態を正しく示す基準かどうかが問われる。まして「政府検討」というのも問題。会計基準の中身について政府が口を出すのは禁じ手だからだ。

成長戦略に盛り込めるとすれば、「会計基準の国際化を促進する」という一文だろう。欧米基準と違う日本基準を、欧米基準に合わせるという大きな方針ならば、政府が指示しても問題はない。リーマンショック直後に開催されたG20(20カ国首脳会合)でも「単一で高品質な国際基準を策定する」という目標が決められ、日本もそれにコミットしているから、日本政府が会計の国際化を進めるのは当然の流れとも言える。

実際、会計基準の国際化は着々と進んでいる。金融庁は企業が任意にIFRSを適用することを認めている。つまり、日本基準を変えるべきだという要望を出すならば、国際的に通用するIFRSに基準を変えてしまえばよいわけだ。日本企業全体にIFRSを強制適用すべきだという声も根強くある。日本基準とIFRSをまったく同じものにしてしまおうという発想だ。

日本基準での「のれん」の扱いを変え、経費として計上しない「非償却」にしようという意見がすんなり通る可能性も低い。なぜならIFRS採用に抵抗している反対派が「のれんは償却すべきだ」と強硬に主張しているからだ。

こうした反対派の声を受けて、昨年6月に金融庁の企業会計審議会が出した「当面の方針」では、IFRSの任意適用拡大を進める一方で、日本版IFRSをまとめる事を決めた。日本版IFRSは純粋なIFRSと一部違う基準を含むものになりそうで、のれんの償却などが大きな差異として含まれる可能性がある。日本基準を作ってきた斎藤静樹・東大名誉教授らが、日本基準自体をのれん非償却に変えることに同意するとも思えない。

実際、IFRSの基準を決める国際舞台で、長年、日本がのれんの償却を主張してきた結果、非償却の問題点なども議論されるようになってきた。それを今さら、足下の日本基準を180度転換するのは、ちょっと無理な相談なのだ。

そんな日本の会計基準が置かれた現状を知らずに経産省がひとり張り切っているのか。それとも事情を分かったうえで、担当の金融庁に揺さぶりをかけているのか。

金融庁の幹部は、「あくまで経産省の有識者会議での意見で、良い案が出てくれば検討はするが、現状ではすぐに会計基準を変えるという話にはならない」と静観する。

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