経済・財政
公人の「右傾化」と「感情的反中」が真の国益を損なっている!中国自動車市場で苦闘する日本企業の現実
トヨタ常熟開発拠点(筆者撮影)

NHKの籾井勝人会長が1月25日の就任会見で、戦時中の従軍慰安婦や強制連行などに関して政治的な発言をしたことに対して、与野党からの批判も高まっている。その理由は、放送法ではテレビ局は政治的な中立性を求められており、籾井氏の発言がそれを損なう可能性があるからだ。

籾井氏の個人的な信条や歴史観はさておき、番組制作に責任を持つNHK会長が公式の場で発言する内容ではなかったことは明らかだ。その見識が問われるし、今後、NHKの番組への信頼性が損なわれかねない。NHKの番組は海外で最も放映されており、その番組への信頼性が低下すれば、それこそ日本という国自体への信用も落ちかねない。

この籾井氏の発言も含めて、最近の財界人や政治家の発言は極度にいわゆる「右傾化」していると感じる。2012年12月の総選挙で自民党が大勝して安倍政権が誕生して以来、安倍晋三氏の個人的な歴史観や信条に近い人たちが、政治の中枢に座り、財界でも影響力を強く持ち始めたからであろう。

筆者は、公的な立場にある人物が、意地を張っているかのように無理やりに個人的な歴史観や信条を政治に持ち込めば、「真の国益」を損なうとの危機感を持っている。その象徴的な出来事が、「籾井発言」であり、昨年12月の安倍氏の靖国参拝ではないだろうか。

断わっておくが、筆者は祖国を愛する気持ちは大事であるし、国のために尽くすとか、国を支えるという発想も大切であると思っている。特に、官でも民でもない「公(おおやけ)」という視点が大切だとも思っている。その理由は、「真の国益」を維持するためである。筆者が考える「真の国益」とは、国民が経済的にも精神的にも豊かに暮らしていける社会を維持・発展させることである。

しかし、リーダーたちの「右傾化」によって、日本は「真の国益」が損なわれ始めているのではないかと危惧する。昨年11月と今年1月、中国に出向いて、日本の自動車産業の関係者に多く会い、それを痛感した。

「米国の最も大切な国は中国」と日系企業幹部ら

2013年の中国での新車販売台数は前年比13.9%増の約2198万台で、初めて2000万台を突破し、5年連続で世界一位の座を堅守した。世界2位の米国は7.6%増の約1560万台。中国の市場規模は今や、かつての「自動車王国」の1.4倍にまで膨らんでいる。日本(約538万台)との比較でも約4倍だ。昨年のグローバルでの総新車販売台数は8300万台程度と見られることから、世界の新車の4台に1台は中国製という計算だ。

GDPの伸び率は7%台に落ちたと日本では報道されるが、それでも高水準にあり、経済成長に伴う賃金上昇によって個人消費の伸びは13%という高い伸び率を維持しており、自動車販売もそれに支えられている。

こうした世界最大の市場で、日本車は2012年秋の尖閣国有化による反日デモなどの影響を受けて苦杯をなめ続けてきた。しかし、日産やホンダ、トヨタはサービス向上を推進して既存の顧客を逃がさないように努め、新車も積極投入して挽回してきた。いずれも企業の自助努力によるものである。

昨年半ば以降は徐々に盛り返し、昨年12月に日産は単月としては過去最高を販売、トヨタは過去2位の実績だった。ホンダは昨年12月までの4か月連続で過去最高を更新した。この結果、13年のメーカー別ランキングは次のようになる。

1位独VW(前年比14%増の320万台)、2位米ゼネラル・モーターズ(同11%増の316万台)、3位韓国・現代自動車(同16%増の161万台)、4位日産(同17%増の126万台)、5位米フォード(同49%増の93万台)、6位トヨタ(同9%増の91万台)、7位ホンダ(同26%増の75万台)。

ここから言えることは、中国で日本車は復活したとはいえ、競合メーカーも2桁の伸び率を示し、差は依然として縮まっていないという点だ。欧米メーカーの中には日本車が反日デモの影響を受けて低迷している最中に、「日本車を買えば壊されますよ」とキャンペーン行ったところもある。フォードは12年の6位から5位に浮上してトヨタを追い越した。上位7社の中では最も高い伸び率を示す。

日中の政治関係が冷えれば、経済的な利点を享受するのは欧米メーカーであるということがはっきり分かる。中国市場の最前線で国際競争にさらされている日系企業の幹部はこう話す。

「表面的には米中の政治関係には一定の緊張感があるものの、二大大国ということで両国も意識して水面下では妥協点を探っている。米国債を最も多く買っているのも中国であり、米国にとって最も大切な国は実は中国。こうした観点からみていると、日本は米国の力に期待して中国との政治交渉を優位に進めようとしたら、いずれ梯子を外されて痛い目に遭うのではないか」

似たような指摘をする日系企業の駐在員は多かった。

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