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インテリジェンス対談手嶋龍一×佐藤優
この問題の考え方で「知の武装」レベルがわかる

日中韓激しすぎる憎しみの連鎖

靖国参拝で事態は変わった

佐藤 昨年末以降、私たちが以前から日本外交について予測してきた通りのことが、バタバタと立て続けに起きていますね。

手嶋 ただ一つ異なるとすれば、思っていたよりも事態の展開が早かった。

佐藤 その通りです。ギリシャ語には、時間を表す言葉に「クロノス」と「カイロス」の2種類があります。クロノスとは、ふつうに流れてゆく時間のこと。カイロスとは、ある決定的な事件が起こり、それ以前とそれ以後では同じものでも異なる意味を持つようになるような「切断」のことです。

日本外交にとって、安倍総理が靖国神社に参拝した2013年12月26日は、まさにこのカイロスになってしまった。

手嶋 靖国参拝の前と後とでは、日本を取り巻く風景が全く異なってしまったんですね。

安倍総理の行動が米国の批判を招き、中国が外交的攻勢に出る隙を与えている。しかも、米国の反発は彼らの基本的な価値観に根差しています。「自由や基本的人権といった共通の考え方が分かち合えない日本を、同盟国として守るのか」という米国内の厳しい世論にオバマ政権はさらされているのです。

佐藤 日本がおかれた状況は、サウジアラビアに近くなっていますね。どちらも米国の重要な同盟国なんだけど、基本的価値観が共有できない国だと。

米国には、ナチスドイツとドイツ連邦共和国が別の国家であるのと同じく、大日本帝国といまの日本国は別だという前提があります。しかし、いまはこう疑い始めている。安倍総理の掲げる「戦後レジームからの脱却」とは、単なる日本の自立ではなく、われわれと戦ったあの日本の復活を指しているのではないか。どうしてそんな国のために、米国の若者が血を流さなくてはいけないのか—。

手嶋 私も佐藤さんも、決して安倍総理のことを頭から否定しているわけではありません。

ただ、毅然とした対中姿勢を貫くには、揺るぎない日米同盟こそがその基盤になります。安倍総理の靖国参拝は、日米同盟を揺るがすものだったと警鐘を鳴らしているのです。

靖国問題の核心は、米国の出方です。彼らは強い違和感を表明しています。

佐藤 ええ。それなのに、自民党防衛族の政治家は希望的観測に縋って、「米国の声明のdisappointed(失望した)という単語は、それほど強い意味ではないから、きっと米国は怒っていない」などと言っています。外交上のシグナルを正確に受け止められなくなっている。

手嶋 靖国参拝の当日、在日米大使館が声明を出した直後に、多くのメディアの取材を受けてワシントンの厳しい空気を伝えました。しかし彼らは皆「米国側には参拝直前に伝えていた。米国の声明は大使館レベルのものだから、米政府の意向ということにはならない」と反論するんです。どの社も同じ情報源、つまり官邸の統制を受けている。情けないことです。

佐藤 官邸の情報操作ですね。ワシントンはその後すぐに「米国政府は失望している」と国務省レベルで声明を出しています。

各国はふつう、「こんないい加減な分析しかできない奴らが、日本の政治家や知識層にこれほど多いはずがない」と考える。つまり、「日本はわざと的外れなことを言って、ディスインフォメーション(偽情報)を流そうとしている。悪辣だ」という解釈をされてしまうわけです。単に能力の問題であるにもかかわらず。

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