【文部科学 その8】科学技術イノベーション:国家戦略と産官学連携による好循環を産み出せ!
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政府は昨年6月に「科学技術イノベーション総合戦略」を策定した。科学技術による経済社会の発展を重視し、重点分野を国が定め、日本を世界で最もイノベーションに適した国にするという。大いに進めて欲しい政策だ。

イノベーションの重要性に関しては「100の行動」でも何度も取り上げてきた。日本では、イノベーションが長きに渡って「技術革新」と訳されてきた。一説によると、1958年の経済白書による紹介の際に「技術革新」と記載されたものが定着したとのことだ。しかし、以前にも述べたように、イノベーションは「技術革新」だけにはとどまらない。ビジネスモデル、文化、社会、いかなる分野にもあり得るものだ。シュンペーターによれば、イノベーションは、物事の「新結合」や「新しい捉え方」、「新しい活用法」を創造することにより、新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすことだ。

その意味で、イノベーションの源泉は「人」であり、戦後日本は、数々の偉大なイノベーターたちによって、トヨタの「カイゼン」のようなプロセスイノベーションや、トランジスタラジオ、ヘッドフォンステレオの小型軽量化、自動車や電化製品の省エネ化などのプロダクトイノベーションなどが次々に創出され、高度経済成長を牽引し、石油危機のようなピンチをチャンスに変えてきたわけだ。

したがって、日本をイノベーション大国にするには、イノベーションの基礎となるイノベーター人材、すなわち、経営者人材、理工系人材、プログラミング人材、更には技能職等の幅広い多様性が高い人材育成を、長期的視野に立ってすすめることが必要だというのが「100の行動52」で筆者が提言してきたことであった。

しかし、莫大な研究開発費用と長期的・戦略的な視点が必要な「科学技術」に関していえば、イノベーションを引き起こすために国の役割は大きいといえよう。よく知られているように、アメリカで起こった、インターネットやGPSなどのイノベーションは、すべて政府による長期的・戦略的な視点によるハイリスク・ハイリターンプロジェクトの成果であったわけだ。

資源のない島国である日本はこれまでもずっと科学技術立国を標榜してきた。30~50年後の未来の日本の経済・社会が世界のトップクラスであり続けられるよう、国が科学技術立国の戦略をしっかりと持ち、イノベーションが起こるよう政策を強力に押し進めていくことは必要不可欠だ。

1.「選択と集中」で科学技術戦略を明確にせよ!

科学技術によるイノベーション創出のためには、次に述べる循環が必要不可欠だ。

1)国家による長期的・戦略的な研究開発により、基礎となる先端技術を生みださせ、
2)産官学連携を通じて企業の商品・サービス開発に活用され、社会を変え、成長を促す価値を産み出す。

それにはまず、国家による明確な戦略が必要だ。アメリカにおける科学技術のイノベーションの実例をみてみよう。インターネットやGPSなどは、社会に新しい価値をもたらし、社会の在り方そのものを変えたといっても誰も異論は無いだろう。これらはいずれもDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:米国国防高等研究計画局)による長期的・戦略的な研究開発プロジェクトが民間によって事業化されたものだ。

インターネットの原型は、DARPA の前身である ARPA(Advanced Research Projects Agency)が1966年に開始したコンピュータネットワークの研究プロジェクト「ARPANET」だった。そこで培われた技術はその後、研究機関を結ぶネットワークへと発展し、1990 年頃から商用利用されるようになり、現在のインターネットが形成されていった。

GPSも、1973年に開発計画が国防総省から承認され、DARPA で開発計画が開始されたものだ。それが、1990 年代に民生利用への開放が進み、カーナビゲーションや携帯電話、航空機や船舶の航行などにも利用されるに至っている。

アメリカの例をみると、国の役割は、長期的な視点にたって研究開発の旗をたて、ロードマップを描き、継続性を持って研究開発投資を続けることだ。それを民間が事業化し、社会を変え、成長を促す価値を産み出すイノベーションにつながるのだ。

冒頭で述べたように日本政府は昨年6月に「科学技術イノベーション総合戦略」を策定している。ここで重点分野に挙げられたのは、

①クリーンで経済的なエネルギーシステムの実現
②国際社会の先駆けとなる健康長寿社会の実現
③世界に先駆けた次世代インフラの整備
④地域資源を「強み」とした地域の再生
⑤東日本大震災からの早期の復興再生

であった。これらの重点分野が、すべて政策目標として重要であることに異論は挟まないが、国家の長期的な視点にたった科学技術戦略の政策目標として合理性があるのかは疑問だ。政府による科学技術イノベーション戦略が、単なる各省庁の予算分捕り競争の理屈付けに陥ってしまっては元も子もない。

したがって、政府はより明確に的を絞った科学技術投資戦略を描くべきだ。震災復興が重要な政策目標であることに異論はない。しかし、国家による科学技術戦略は、もともと資源もなく、アメリカに比べて予算も限られる日本が、限られた予算と資源を投入するために「選択と集中」を行うために立てるものだ。

「戦略」とは目標を決めたら、それ以外のものは「略する」「捨てる」ことだ。すべてを羅列するのは戦略ではない。

政府の「科学技術イノベーション総合戦略」は一度描いたらそれで終わりというものではないだろう。今後政府は専門家の意見を取り入れつつ、「選択と集中」による明確な戦略を策定すべきだ。

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