『イーロン・マスクの野望』桁外れの野心家 未来を変える天才経営者

レビュアー:竹内一正

我々が人類史上類をみない大変革の時に居合わせていることを気付かせてくれ、単調な毎日を過ごしがちな私たちをワクワクさせてくれる、そんな一冊だ。

日本ではまだ認知度が低いかもしれないが、今、世界中から「未来を変える天才経営者」として注目されている起業家がいる。1971年に南アフリカで産まれ、31歳の時アメリカで億万長者の仲間入りし、現在地球規模の壮大な挑戦をする今年43歳の男だ。彼の名はイーロン・マスク。2010年公開の映画「アイアンマン2」で、天才発明家にして大富豪の主人公トニー・スタークのヒントになった人物である。

イーロン・マスクの名が世に知られるようになったのは、2002年にeBay社が15億ドルもの価格で彼が設立したインターネット決済サービスの会社「ペイパル」を買収し、世間の注目を浴びた頃からだろう。当時ペイパル社株式の12%を保有していた彼は約1億7千万米ドル(約170億円)もの資金を手に入れ、若くして億万長者となる。そんな彼がその資金を元手に次はどんなインターネットサービスを始めるのかシリコンバレーの注目が集まったが、彼はそんな周囲の期待を尻目に、インターネットとは全く関係のないビジネス・プランを打ち立てる。

彼が次に始めたのは宇宙ロケット開発だったのだ。彼は「スペースX」という会社を設立し、大見得を切って会社の目標は「宇宙ロケットで人類を火星へ移住させること」と言い切る。人口増加と温暖化による気候変動が続く地球に人類が住み続けられる期間は短く、人類は火星へ移住する必要があると信じ、その手段を自ら作ろうとするのだ。しかも「打ち上げコストは従来の10分の1までコストダウンさせる」と高々と宣言する。

世間は、インターネットベンチャーの起業家が唱える火星移住計画に対し、「不可能だ」と言って切って捨てる。その後もイーロンは数々の批判や中傷を受け続けるが、彼とスペースX社のメンバーは同社にとって初の宇宙ロケット「ファルコン1」の開発を着々と進めていく。そして創業6年後の2008年、3度の失敗後の4度目の正直で、遂に民間ロケット初の地球軌道飛行達成という快挙を成し遂げるのだ。しかも、スペースX社の打ち上げコストは宣言通り、NASA試算値の約10分の1まで下がっていることが判明し、文字通り世間を「あっ」と言わせることに成功させた。今では宇宙ロケット開発においてあらゆる国を相手に競争を仕掛けるスーパー民間企業だ。

ネットビジネスと宇宙ロケット開発の両方を成功させただけでも十分「天才経営者」と呼ばれるに値するが、彼はそれだけで満足ない。イーロンは宇宙ロケット開発という壮大な夢を追っている最中、なんと、これまた全く別の電気自動車事業へも着手するのである。2004年に電気自動車ベンチャーである「テスラ・モーターズ」に出資し、会長に就任、その後社長を務めるようになる。ガソリン車よりも化石燃料を使わずにすむ電気自動車の普及に陣頭指揮を執るのである。