しんがり 山一証券 最後の12人 著者:清武英利
一章 予兆 3.総会屋の影

【一章 予兆 2.ガサ入れ】はこちらをご覧ください。

それから十日後、山一の本社ビルにある役員会議室では副社長会が開かれていた。招集を依頼したのは嘉本である。

楕円形のテーブルの上には、「小甚ビルディング関連口座調査概要」という報告書があった。前述したように、小甚ビルディングは小池のダミー会社で、東京・六本木のマンションに名目上の事務所を構えている。

副社長会は副社長以上の役員が出席する重要会議で、社長の三木淳夫ら六人が嘉本の読みあげる文書に目を落としていた。前社長で、「山一のドン」と呼ばれる会長の行平次雄は三木よりも上座に着いている。

「今回の報告は社内資料やマスコミの分析に基づいて問題点を整理したものです。重要なことは、特別調査課の調査は犯則調査であるということです。当社が経験してきた総務検査課の定期検査とは根本的に違います。したがって、当社の、もちろん業務監理本部も含めてですが、大蔵省や証券取引等監視委員会へのハードネゴシエーションは通用しないと思います」

ハードネゴシエーションとは、大蔵省などへの働きかけ、さらに言うと陳情活動によってお目こぼしをしてもらうことである。そんなことは無意味だと釘を刺したのだった。

小池が四大証券の株を三十万株ずつ保有していたことはすでに触れた。後になってわかったのだが、小池の狙いは、大株主となって証券会社の株主提案権を握り、証券各社から利益を得ることだった。山一の場合も、小池の脅しの窓口は本社総務部であり、社長や副社長の承認のもと、総務部と株式部、首都圏営業部が一体となって小池を儲けさせていた。

三木たちはそこから逐一報告を受け、指示も下している。つまり、トップが利益供与の当事者なのだが、三木は口をつぐんでいた。それを知らない嘉本の声が役員会議室に響いた。

『しんがり 山一證券 最後の12人』
著者:清武 英利
⇒本を購入する(AMAZON)

「今回の立ち入り調査を従来の大蔵検査の延長でとらえることは間違いなのです。ぜひここをご理解いただきたいのです」

嘉本にも確信めいたものがあった。

――この問題はいま、大蔵省傘下のトクチョウの事案だが、本質は地検特捜部が関心を抱く刑事事件だ。山一も利益供与の事実があるのならば早急につかんで手を打つべきだろう。一つ間違えば、社内から刑事被告人を出すことになるかもしれない。

野村證券の場合は、自社の監査部門にいた社員の内部告発を無視し、マスコミに報じられた後もシラを切り通した。そのあげく、トクチョウと東京地検特捜部の捜索を受け、記者会見で総会屋への利益供与を認めざるを得なくなっていたのだ。