社会保障・雇用・労働 ドイツ
国境をなくすのは"言うは易く行うは難し"!? 外国人労働者を巡る議論が炎上するドイツの実状
川口 マーン 惠美 プロフィール
〔PHOTO〕gettyimages

2014年より、EU内でのブルガリア人とルーマニア人の権利が拡張される。EUの各加盟国は、新しい加盟国の人間に対して、7年間は自国への移住や労働条件に一定の制限を課すことができるという規則がある。そして、多くの加盟国が2007年に加盟したブルガリアとルーマニアに対して、この規則を適用していた。

つまり、去年まではこの2ヵ国の人々は、EU圏内のどこにでも移動はできたが、居住し、自由に就職することはまだ制限されていた。ドイツも、7年間、両国にその制限を掛けていた国の一つだ。

詐欺をする者は追い出される

しかし、その期限が去年で切れた。したがって今年から各国で、この2ヵ国からの労働者の増加が予想されている。労働者がどこの国へ流出するか? いくら隣りあわせでも、ブルガリア人が職のないギリシャに行くとは考えられないし、ルーマニア人がハンガリーへ行くこともないだろう。つまり、ドイツ、オーストリア、イギリスなど、比較的経済のまわっている国がターゲットとなるのは明らかだ。

1月の初め、CDU(キリスト教民主同盟)の姉妹党であるCSU(キリスト教社会同盟)が党会議を開いた。その中の議題の一つが、「詐欺をする者は追い出される」である。それが元で、今、ドイツでは、外国人労働者を巡っての議論が炎上している。

ドイツには、労働力が足りない職種が多々ある。一番顕著なのは医療の世界。ドイツの病院や老人ホームは、すでに東欧、あるいは、旧ユーゴ諸国の介護士なしには、にっちもさっちもいかない状況だ。食肉加工も、東欧からの労働者なしにはやっていけない職種の一つだ。彼らが低賃金で働いてくれているから、ドイツ人は飛び切り安い肉を食べることができる。

また、ドイツでは、質の良い熟練労働者も不足している。熟練労働者というのは、工場などの生産過程で必要な技能を持つ労働者だ。工場での生産の機能を直接的に握る、重要な人員である。彼ら無くしては、立派な施設があっても、潤沢な生産に繋がらない。

ところが、この熟練労働者がすでに長らく不足している。ある程度優秀なドイツ人は、"労働者"ではなく、"技術者"になりたがることも、不足の原因の一つだ。一方、熟練労働者としての職業訓練を受けるべく集まるドイツの若者たちは、質が悪くて使い物にならないことが多い。困り果てた産業界は、鵜の目鷹の目で、外国の質の良い熟練労働者を探している。

さらに足りない職種として、医師や技術者など、高度な資格を要する職種も挙げられる。だから、医師や歯科医、あるいは技工士などが、やはり東欧からやって来る。ドイツの方が給料は比べ物にならないほど良い。そのせいで、チェコやポーランドでは医師不足になり、ドイツでは外国人の医師がドイツ語をよく解さないという現象まで起こっている。

しかし、これらの外国人は、ドイツ社会が欲しているところでもあり、目下のところ、深刻な利害の対立はない。それどころか産業界は、もっともっと外国人に来てほしいと願っている。つまりこれからも、EUの発展に伴い、人間の自由な往来が増え、就業の国境はさらに消えていくものと思われる。

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