『世界ナンバー2列伝』歴史の名脇役

レビュアー:鰐部 祥平

『世界ナンバー2列伝』これが、本書のタイトルだ。ナンバー1ではない。あくまでナンバー2である。人間という存在が組織的な活動をするためには、どうしても序列が必要になる。大きな組織の場合、ナンバー1になるということ自体が並大抵のことではない。著者も本書で似たことを述べているが、ナンバー1になるためにはある種の正当性が問われることになる。特に社会の機構が複雑になればなるほど、組織のトップは実力のみではなく、この正当性が重大な問題となってくる。

神の意志。血統。多数の者たちの同意。時代、文化によりその正当性は異なれど、どうしても一部の人間にしか越えられないハードルがナンバー1とそれ以下には存在する。しかし、人間はその出自や社会状況に関係なく、野心を抱き、向上することを夢み、そして己が能力の有無を世間に問いかけたいと願う。それこそが人間性を形成する一部だ。

神の恩寵を受けたナンバー1へのハードルをどうしても越えることのできない多くの男たちは、組織のナンバー2を目指す。そう、本書は歴史の神の恩寵を最大限に引き出すことの出来なかった、優れた凡人たちの物語であり、また私たち大多数が到達することが可能な、最大限の頂に上り詰めた人々にスポットを当てた、ライト感覚の歴史書だ。

本書は歴史上の名脇役、76人の生涯と業績をひとり数ページとコンパクトにまとめている。通勤通学の電車の中、昼休みなどにさっと取り出し、サクッと歴史の世界に旅することができる。扱われる場所も、西欧、北欧、南欧、東欧、アメリカ、インド、東南アジア、中東、アフリカ、中央アジア、中国、日本と多岐にわたる。また扱われる時代も古代から近現代史までと幅広い。教科書に載っている、世界史の有名人から聞き覚えの全くないアフリカの王国の宰相まで、様々な人間のドラマがギュッと濃縮されている。

鉄血宰相ビスマルク(Wikipediaより)

本書で最も有名なナンバー2と言えば、歴史の教科書にも必ず載っているこの男、ビスマルク。本書の表紙をも飾る堂々たる有名人。そんな彼のエピソードとして面白いのが、普墺戦争の際の話だ。皇帝ヴィルヘルム一世と激しく意見を対立させたビスマルク。皇帝は軍部をも味方につけビスマルクを追い詰める。

窮地に立ったビスマルクはなんと泣きわめきながら、四階の自室から飛び降り自殺をはかろうとするという、ヒステリックな一面を見せている。鉄血宰相として理性的、冷徹な政治判断をくだし権謀術数に長けた名宰相の意外な一面であろう。

彼らの権力はナンバー1の信頼と寵があればこそ維持されるのである。ここにナンバー2には超える事の出来ない権力の壁が残酷なほどに見て取れる。実際に本書でも幾人もの粛清されたナンバー2が登場する。