首長を事実上の最終責任者に 教育長は「補助機関」と中教審答申 法改正に向け異論も[教育]

教育委員会制度改革を議論してきた中央教育審議会は2013年12月13日、首長を教育行政の決定権限を持つ「執行機関」とする改革案を、下村博文文部科学相に答申した。教育長は首長の下で実務を取り仕切る補助機関、教育委員会は首長への勧告権を持つ「特別な付属機関」に再編する。首長を事実上の最終責任者とする内容については、中教審内部や与党内に「首長の権限が強まり過ぎる」との懸念がある。地方教育行政法などの法改正に向けた与党内協議では、曲折が予想される。

教委改革は、2011年の大津市中2いじめ自殺事件における市教委の対応が問題化したことを受けて議論が本格化した。13年4月、政府の教育再生実行会議は、非常勤の合議体である教委に代わり、常勤の教育長を「地方教育行政の責任者」とする改革方針を提言した。

その後、中教審で議論が引き継がれたが、選挙で選ばれていない教育長の権限を強めることへの反対や、「予算編成や訴訟で最終的に責任が問われるのは首長だ」などの指摘があり、首長を執行機関とする案が浮上した。

今回の答申によると、執行機関となる首長は、大綱などの大方針を策定するほか、議会の同意を得て教育長、教育委員を任命する。教育長は首長の事実上の「部下」に当たる補助機関となる。教育長の独立性に配慮し、首長からの指示は「教育長の事務執行が著しく適正を欠く場合」や、いじめなどで「児童生徒の生命、身体の保護のため緊急の必要がある場合」など「特別な場合」に限定する。教委は、首長や教育長の判断に政治的中立性の確保などで問題がある場合に勧告できるほか、首長が教育長に指示を出す場合は意見を付けることができる。

確かに改革案が実行されれば、大津事件のように教委が適切に機能しない、または判断を誤った場合、首長判断で素早く対応することができる。中教審でもこうした機能面の改革に異論は出ていない。しかし、首長が間違った行動を取ろうとする時、どうなるのか。答申は一見すると首長、教育長、教委の3者がバランス良く権限とチェックを相互に作用しているように思えるが、実際の運用を想定すると、制度としての実効性に疑問符が付く。

特に制度的欠陥が否定できないのは、首長が教育長に指示を出せる「特別な場合」の設定だ。仮に、時の首長が「教育非常事態宣言」を宣言し、学力向上のため現場に介入しようとした時、教育長や教委は止めることができるのか。その首長が「私の意見は有権者の意見だ」と主張した場合、反論すらできなくなる可能性が高く、結果的に歯止めにはならないとの見方が強い。

実際には、多くの首長と教委は、頻繁に意見交換しながら、首長のリーダーシップと教育の政治的中立性を両立させながら、「紳士協定」に基づく絶妙なバランス感覚で相互不可侵の関係を維持している。今回の改革案が実施されても、さほど影響は出ないとの見方が現実的だ。しかし、一時期の「熱狂」で有権者が間違った判断をした時、または教育の安定性と政治的中立性への認識が弱く過度なリーダーシップをふるう首長が出てきた時、新制度は機能するのか、疑問は消えない。

中教審でも、こうした点に異論が噴出し、「そもそも『教育長を責任者』とする再生実行会議の提言と方向が違う」との原則論まで飛び出し、議論は最後までまとまらなかった。答申では反対意見に配慮し、教委を執行機関とする現行制度に近い考え方についても付記したが、答申における結論はあくまで「首長が執行機関」として押し切った。

首長の「暴走」に懸念深まる

今回の改革は、これまでの教委制度に不信感を持つ首長たちを早速、勢いづかせている。

独自の教育改革を進める橋下徹・大阪市長は、中教審分科会がまとめた答申案について「ものすごい大改革だ。責任の所在をあいまいにしてきたのが日本の教委制度。役割分担が明確化し、組織として機能するようになる」と歓迎した。

今年度から導入した公募校長制度は市長選時の公約の一つ。11人を採用したが、セクハラや着任数カ月での辞職など不祥事が相次いだ。「困っている。ひどい校長も多い」(市教委職員)と悲鳴も上がったが、橋下市長は「外部人材が組織に入るメリットは計り知れない」と来年度も20人を採用する予定だ。市教委幹部は「市長が暴走した場合、止められるか疑問だ」と声を潜める。

全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)で上位校の校長名を公表し、一部の学校別結果を事実上明らかにした静岡県の川勝平太知事は、現在の県教委事務局を「閉鎖体質」と批判した上で、「教委事務局に対して食らわせてきたパンチがあちこちに良い形で影響が出ている。覚醒したという感じだ」と感想を述べた。

中教審答申としては異例となる異論付記、そして与党や中教審内部からの止まらぬ反論――。大臣就任以降、順調に「教育改革」を展開してきた下村文科相も、今回は慎重な姿勢を見せている。12月17日の閣議後記者会見では「中教審の答申も必ずしも一本化されておらず、いろいろな付記事項も結構入っている。(首長が執行機関という)案だけですべてまとまった、というわけではない」と述べた。また「与党の中でできるだけ早く、しかも丁寧に議論を進める中で、政府・与党一体となって次期通常国会に(改正法案を)早めに出せるよう準備したい」と強調した。

今回の答申には、戦後教育体制の見直しを進めたい安倍晋三首相の意向が反映されている、との見方もある。下村文科相は与党内調整を3月初旬までに終え、法案審議に移りたい考えだが、公明や自民のベテラン議員を中心に反対意見は根強く、展開によっては修正を余儀なくされる可能性も残されている。

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