特集 政権の「死角」
長期安定目指す安倍首相
民意を畏れねば落とし穴も……

元気に記者の呼びかけに応えて首相官邸に入る安倍晋三首相=13年12月5日

政権発足から2年目。安倍晋三首相が長期政権を目指すためには、やりたいことより国民が求めるものを追求するという、第1次内閣崩壊から得た教訓を改めてかみしめることが必要だろう。今年は消費増税など国民に負担を強いる年だ。憲法改正、歴史認識の見直しなど「安倍カラー」を抑制し、経済再生による国民生活の向上に政権のエネルギーを集中させることが求められる。衆・参院選、統一地方選、自民党総裁選と同氏の命運にかかわるような選挙はない。しかし民意を畏れず何でもできると思ったらそこに落とし穴がある。

2014年。安倍氏はいきなり外交攻勢をかける。1月7日には来日するトルコのエルドアン首相と会談。中旬には日本の首相として初めてのコートジボアール、モザンビークなど中東・アフリカ4カ国を回る。スイスでのダボス会議から帰国後、25~27日には政権発足以来初めて大国・インドを訪問。シン首相との会談で、就任以来の中国を意識した海外行脚は一巡する意味合いを持つ。

国内では1月19日に米軍普天間飛行場の移設問題が争点になる沖縄県名護市長選がある。自民党本部は県外移設を求めていた党沖縄県連の方針を転換させた。仲井真弘多知事の公有水面埋め立ての判断と合わせて、選挙結果によっては状況が動く可能性もある。

13年内の合意を目指した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉は越年となった。日本は聖域の農産品5項目の関税化について米国から厳しい要求を突きつけられている。仮に合意されても、詳しい交渉内容が明らかになっておらず、批准に関する国会審議は激しい論争になりそうだ。

3月11日は東日本大震災から丸3年。震災復興は政府の最優先課題だが、地域によって復興の進捗状況の濃淡は大きく、各地で多くの被災者が苦しんでいる。特に福島第1原発の事故によって故郷を離れざるを得なかった避難者の将来設計は深刻な課題だ。全員の帰還方針を転換する与党の復興加速化策が示された。自民党の培った調整能力を発揮し、丁寧に地元の理解を得ながら復興策の具体化を進めるべきだ。

通常国会は外遊日程を縫うように1月後半に開幕。来年度予算案に先立ち約5兆5000億円の補正予算が審議される。4月に導入される消費税率の5%から8%への引き上げへの対応策が中心だ。

国民生活に直結する消費増税は安倍氏を悩ます今年最大のテーマだ。それとともに70~74歳の医療費窓口負担割合が1割から2割に、公的年金の給付額引き下げ、厚生年金保険料の増額など数多くの負担増も予定されている。

株高、円安傾向など上向いてきた景気状況が安倍政権の推進力であり、増税後の景気の悪化は政権の求心力を低下させる。

15年10月の消費税10%を決断できるか

安倍氏は年末までに15年10月の10%への消費税率再引き上げの決断を迫られる。景気動向と15年春の統一地方選挙、16年の参院、衆院の国政選挙を視野に入れながらの難しい判断となる。

14年度与党税制大綱では、生活必需品への軽減税率の導入について、財源の確保を前提に「10%時に導入する」との表現となった。税率10%の期間中のいずれかに導入するというあいまいなものだ。公明党が導入に積極的なのに対して自民党は終始、消極的だった。

安倍政権が税率2桁でも軽減税率導入について躊躇したことから、安倍氏は10%引き上げに踏み切らないのではないかとの観測も出ている。

尖閣諸島をめぐり対立した日中関係の改善はみられず、中国は防空識別圏設定など国際社会を刺激する行動を繰り返している。隣人である中国、韓国との関係改善は最優先の外交課題だ。

張成沢氏の死刑執行など北朝鮮情勢も不透明で、その意味からも政府は安全保障面の日米関係の強化を図ろうとしている。

昨年の日米の外交・防衛担当相による会合で、14年末までに自衛隊と米軍の役割分担の枠組みを定めた日米防衛指針(日米ガイドライン)を再改定することが合意された。政府は集団的自衛権の解釈変更をガイドラインに盛り込むことを模索しているが、その前に解釈変更を政治日程に上げなければならない。

強引に通した特定秘密保護法によって内閣支持率は急減し、政権に大きなダメージとなった。国民の政権への警戒感を取り除かなければ、集団的自衛権の解釈変更に関しても「軍事的膨張をはかる意図があるのでは」と疑われかねない。

臨時国会では役人の恣意的な秘密指定をチェックする第3者機関の創設が焦点になった。土壇場で示された「保全監視委員会」、「情報保全観察室」などの案は、具体性を欠くものでその場しのぎという印象は避けれない。

同法についてはいったん廃案にしてから論議することを求める声も大きかったが、少なくとも第三者機関については政府から独立した機関を作ることが必須だ。

1年で首相が交代する「回転ドア政治」への逆戻りは誰も求めていないだろう。参院選でのねじれ解消も「安定政権」への期待がこもっていたと思う。

しかし数の力は自民党の「おごり」につながり、それを許したのは野党の力不足だった。臨時国会で明確になったのは、野党がまとまらなければ巨大与党に対抗できないという事実だ。

特定秘密保護法成立の後遺症はみんなの党の分裂という形で表れた。渡辺喜美代表に対する自民党へのすり寄り批判が噴出し、江田憲司前幹事長らの新党につながった。

自民党は同法の処理をテコに「自・公・維新・みんな」4党の枠組みを確立しようという思惑もあった。ところが、それがかえって再編の動きを加速させる結果となった。

江田氏は第2段階で通常国会における維新との共同会派の結成、第3段階として民主党との15年の統一地方選挙に向けた新党結成も視野に入ると見られる。江田氏は民主党の細野豪志前幹事長、維新の松野頼久幹事長代行と会合を重ねている。

ただ再編には自民党との対抗軸、求心力のあるリーダー、資金や地方組織などと克服すべき課題は多い。政権党の経験や地方組織を持つ民主党の出方もポイントになる。

野田佳彦前首相、岡田克也氏、前原誠司氏らかつての同党主流派のメンバーも会合を重ねている。独自の再建路線への「こだわり」も強いという。

再編のハードルは高いものの、今年後半になり統一地方選挙がちらつくと「ばらばらでは選挙に勝てない」と野党連携の機運は出てくる可能性が高い。その前に通常国会では、野党としてきちんと与党と対峙する姿勢を国民に見せるべきだろう。

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