景品表示法違反で3社に措置命令 消費者庁 相次ぐ不正に規制強化で再発防止へ[食材偽装]
食材偽装で謝罪する阪急阪神ホテルズの出崎弘社長(右・当時)=大阪市北区で13年10月24日

阪急阪神ホテルズ(本社・大阪市)が昨年10月に発表したことに端を発した一連の食材偽装問題。政府は11月に規制強化策をまとめ、消費者庁が12月19日に同社とザ・リッツ・カールトン大阪を運営する阪神ホテルシステムズ(同)と、子会社が奈良万葉若草の宿三笠を運営する近畿日本鉄道(同)の3社を景品表示法違反(優良誤認)で、再発防止などを求める措置命令を出した。一連の食品偽装問題は、景品表示法を一気に強化するという「置き土産」を残した。

阪急阪神ホテルズ以降、帝国ホテルにホテルオークラ、椿山荘、高島屋、三越伊勢丹……。日本を代表するホテルや百貨店が、次々と偽装表示を公表した。社長の辞任に発展するケースもあった。これだけの偽装が、なぜ放置されていたのだろうか。

問題発覚時に指摘されたのは、食材偽装問題が、制度のすきまを突いた形で起こったことだ。まず、日本農林規格(JAS)法は、食材の表示を規制している。しかも、同法を管轄する農林水産省には1300人もの「食品表示Gメン」がおり、日々、店舗や業者を回って違法な表示がないかをチェックしている。ところが、JAS法の対象は生鮮、加工食品。「外食メニュー」は対象外だ。

そこで、この食材偽装問題は、景品表示法の適用が妥当と考えられた。景表法は、実際より著しく良いと消費者が誤って受け止めてしまうような表示を禁じている。だが、景表法を管轄している消費者庁は、食品表示Gメンのような調査部隊を持っていない。また、都道府県に出先機関もない。

JAS法の対象にはならず、対象となる景表法は、調査がJAS法より緩い。この「スキ」を突くかのように、「ブラックタイガー」をより高価な「伊勢エビ」とするような虚偽の表示が放置され、全国に広がることとなった。

今回のような食材偽装の処分が、これまでに全くなかったわけではない。消費者庁と公正取引委員会は、過去10年間で8件、メニュー表示が実際の食材と異なるなどの理由で景表法違反として、今後同様の表示を行わないことや再発防止を求める措置命令を出していた。

何が「優良と誤認させる表示か」は、景表法には書かれておらず、あいまいだ。そこで、消費者庁は、これらの処分事案などをもとに、今回の偽装騒動の前から、どのような表示が法律違反になるかを例示した「事例集」をウェブサイトで公表もしていた。今回あちこちで問題になった、脂肪を注入した加工肉についても、「ステーキ」と表示すれば違法で、「加工肉」と表示しなければならないことをはっきりと記載していた。

しかし、ある宿泊関係団体幹部は「食品衛生法などは、かなり気を使って守っている。しかし、正直言って、メニュー表示はそこまで意識していなかった」と話す。事例集があることも、今回の問題で初めて知ったという。規制当局が考え方を公表していても、肝心の業者に認識されていなかった。

都道府県にも権限付与 法改正へ

今回の問題発覚後、制度のすきまを埋める方法として大きくは二つの選択肢があった。一つは、外食メニューもJAS法の対象とすること。もう一つは、景表法を強化することだ。政府は、このうち景表法の強化を選択した。11月に具体的な対策として、(1)都道府県も景表法の措置命令ができるよう権限を与える(2)同法の調査権限を他省庁に広げ、食品表示Gメンも景表法に基づく調査ができるようになる(3)事業者内にメニュー表示の責任者を置かせる――ことを公表。次の通常国会に同法改正案を提出する方針だ。

また、一般消費者から「食品表示モニター」500人を募り、疑問に思うメニュー表示などがあれば情報提供してもらうことを決め、さらに、違反した業者から課徴金を徴収することについての検討も始めた。

消費者庁内からは、これらの強化策を渋る声もあった。まず、都道府県への権限付与は、熱心に要望する自治体がある一方、「対応できないというところもあるからだ。このため、消費者庁内には「権限を付与して、自治体がどこまで対応できるのか」という懸念があった。

また、課徴金を導入すれば、景表法で行政処分をする際に、課徴金の額の算定など、追加の作業が加わることになる。現在より緻密な調査が必要になり、措置命令が遅くなったり出しにくくなると言われている。実際、かつて独占禁止法に課徴金が導入された際にかえって処分件数が激減した事例がある。

実は、都道府県への権限付与や課徴金といった景表法強化策は、今回の問題を受けて急に出てきた、というわけではない。消費者庁は数年前から、有識者会議を立ち上げるなどして検討してきた課題だった。しかし、有識者会議などの場でもそのような理由から景表法の規制強化には反対論があり、結局、現状維持のままになった経緯がある。規制強化の推進派だったある弁護士は「あの時に規制強化をしていれば、今回のような食品偽装問題は起こらなかった可能性が高い。それ見たことか、と言いたい」と話すが、一連の食材偽装問題は、図らずも景表法を一気に改正させる劇薬となった。

事件発覚時、森雅子消費者担当相は会見で「法律以前の問題」と指摘した。阿南久消費者庁長官も、「業界全体が汚染されている」と非難した。制度の弱さというより、企業のコンプライアンスの問題という側面が強かったのも事実だ。しかし、問題が広がり過ぎたために、政府も制度強化策を打ち出さざるを得なくなった。

なお、消費者庁は今回、一度もJAS法の拡大には踏み込もうとしなかった。外食メニューをJAS法の対象とすれば、レストランなどのメニューに、いちいち料理の食材の原産地などの表示が義務付けられることになってしまう。外食メニューは原料がよく替わる。JAS法を適用するのは現実的ではなく、過剰規制となりかねない。消費者庁の選択は適切だったと言えるだろう。

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