HONZ現代ビジネス
2014年01月06日(月)

『政治の起源 上』 グローバルヒストリーで読み解く制度の進化

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レビュアー:村上 浩

世界は多様性に満ちている。

ITの普及とともに急速に平準化されていく世界を描いた『The World Is Flat』(邦題『フラット化する世界』)の発売から8年以上が経過し、スポーツから経済まで“グローバル化"が合言葉になっている。それでも、世界はまだまだデコボコなままではないか。インターネットの力で世界はより繋がりあったかもしれないが、今もわれわれは異なる場所で、違う服を着て、似ても似つかない習慣に従って暮らしている。

深夜に子どもが1人で出歩ける国、電車が分刻みのスケジュールで正確に発着する国は、日本以外にそうはない。また、誰でも銃が買える国もあれば、公共交通機関に時刻表すらない国もある。サルから進化し、同じようにアフリカに起源を持つはずの人類がそれぞれに作り上げた社会は、どうしてこれほどまでに異なるのだろう。どのような道のりを経て、これほどまでに多様な社会は形成されたのだろう。

著者のフランシス・フクヤマは、政治制度を切り口に、人類の歩みを振り返る。人間という動物の本質と制度の関係性を明らかにするために、時計の針は人類誕生以前にまで巻き戻される。気の向くままに大地を駆け、何ものにも縛られることのない暮らしを送っていた狩猟採集民時代の私たちの祖先は、どうして無限の自由を放棄し、納税や徴兵などの煩わしさを伴う国家という制度を受け入れるに至ったのか。悠久の時の流れを追えば、一足飛びには実現できない、人類の試行錯誤の軌跡が見えてくる。

振り幅が大きいのは時間だけではない。フクヤマは西洋中心史観に陥ることなく、全地球的に制度の発展と衰退を掘り下げていく。考察する時間と空間を限界まで広げるのは、どのような条件下でどのような制度が発生し、どのように機能するかを多角的に比較するためだ。制度の発展と衰退を深く考察していく本書であるが、フクヤマの筆運びは教科書的な退屈なものとは程遠い。歴史の大きな流れが、一行読み飛ばすのも惜しい程の高密度で描かれ、そのストーリー展開に魅了されずにいられない。

先史時代からフランス革命までを描く『政治の起源』は上下巻の二巻構成であり、著者の来日に合わせて上巻のみが先行発売された。この上巻だけでもとんでもなく面白く、下巻の発売を待たずしてレビューを書かずにいられなかった。困った点といえば、下巻が待ち切れないことと、本書で引用される文献にまでそそられてしまい、新刊を読む時間が少なくなったことくらいだ。また、2014年春には米国で『政治の起源』の続編となる『政治の秩序と衰退』(仮題)が上梓される予定となっている。

フクヤマは国際機関の一員として崩壊した国々の国家再建活動に関わるなかで、本書のテーマに行き着いたという。秩序がなくなってしまった場所で国づくりに取り組むうちに、現代を生きる我々は民主主義を体験したことはあっても、「民主主義をどのようにつくるのか」を知らないということを思い知らされたのだ。そして彼は、制度論は数多あれども、その発生の起源を追求する議論がなされてこなかったことに気がつく。

なぜ、デンマークのように政府が正常に機能している国がある一方で、メラネシア地域やアフガニスタンのように国際社会の多大な努力をもってしても政治秩序が根付かない国があるのかとい問いに答えを出すために、フクヤマは自らの手で制度の起源を解き明かすという難題に取りかかったのだ。

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