あとがきは先に読むな! 実録『捨てる女』に人生を学ぶ

レビュアー:仲野 徹

エンターテインメントノンフィクション、縮めてエンタメノンフの姉御格、内澤旬子さんの『捨てる女』。売れているらしい。ならばレビューを書くこともないかという気もする。しかし、書きたい。それくらいおもしろかった。こんなに小気味よくポンポンと書かれていて、笑えて、その上、どん引きさせられ、最後にディープに考えさせられる本など読んだことがない。

子供のころから何でもかんでもため込むのが好きだった内澤さんが、乳がんあるいはその治療による体質の変化のせいか、"何もない部屋に住みたくなった"のである。mottainaiのマータイさんには悪いけど、捨てまくってすっきりして、がんを攻撃するナチュラルキラー細胞を増やそう、という話である。その話は時系列に沿ってレベルⅠからⅣへとすすんでいく。

いきなりずんずん捨てていくのかというとそうでもない。実際、レベルⅠではたいしたものは捨てられていない。それよりも、なんでそんなもん素直に捨てられへんのやっ!と言いたくなる話まで出てくる。靴が捨てにくいのはなんとなくわかる。考えてみると、鞄や財布も捨てにくいから、革系は捨てにくいのかもしれんので、そこまではいい。

が、冷蔵庫にあった、サハリンのおばあさんが “なにか" の実で作った12年もののジャムとか、推定20年(以上)ものの梅酒とか、すぐ捨ててくれよ…。でないと、いっこも話が進まんやないの。と、読みながらつっこんでいたのであるが、これくらいのことで驚いてはいかんのである。それに、ジャムも梅酒もけっこう美味しかったらしいし。

意図的に残してあったわけではないのであるが、風呂の水を二ヶ月もはったままにしてあった。たとえ忘れていても、気づいた時点でふつう捨てるわな。しかしさすがは生来の捨てられない女、内澤さんは違う。そのまま沸かしてはいろうとする。しかし、沸かしはしたがはいれなかった。“暖められて死にかけたボウフラとボウフラの排泄物のようなかたまり" があったり “底にはあの釣り道具屋などで売られている真っ赤なアカミミズがにょんにょんと蠢いておられ" たりしたら、そら無理やわ。

レベルⅡは、おもに、あの名作『飼い喰い』の豚小屋となる家界隈の話である。少しく安心したことに、ここでは捨てるスイッチが入った。スイッチがはいる前も怖かったが、はいったらもっと怖い。家の中にあったもの、神棚から五月人形まで、神をも恐れず捨てまくる。しかし、怖いのはそれだけではない。いちばん怖いのは、怪しげなタイ人パブで繰り広げられた、ちょめとちゃめの見せっこである。さすがのわたしでも、ちょめとちゃめについて詳しく書くのはためらわれてしまうので省略。