佐藤優の読書ノート---古市憲寿著 『僕たちの前途』
佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol027---読書ノートより

読書ノート No.83

古市憲寿『僕たちの前途』講談社、2012年

本書を読むと、若い世代(古市憲寿氏は1985年生まれ、28歳)のエリートが日本でも着実に育っていることがわかる。

企業について、古市氏はこう述べる。

<当たり前の話だが、「起業をしたい」「社長になりたい」という宣言ほど空虚なものはない。法人だけなら登記をすれば誰でも作れるし、税金さえ払い続ければ誰でも社長でいることができる。税収入を増やしたいだけの政府はそれでいいかも知れない。

しかし、起業をして一定以上の成功を収めたいならば、何らかのビジネスモデルなり、他人がお金を出したいと思うような「専門性」が必要だ。

もちろん、「起業をしたい」「社長になりたい」と言ってしまう若者の気持ちもわかる。先の見えない社会で、いつまでも働けるかわからない会社で、つまらない仕事に時間を拘束されたくない。

それなら気の合う仲間と起業でもしたい。大きなビジネスをしたい。「起業」は、たとえばバックパッカーやワーキングホリデー、世界一周クルーズと同じく、閉塞感に包まれた日常の「出口」に見えてしまうのだろう。

だけど「日本に若手起業家が少ない」「若者よ、もっと起業しよう」というのは話が逆なのだ。起業しても食べていけるくらいの人脈も「専門性」もない人に、起業を勧めても無意味である。それは結局「希望難民」を増やすに過ぎないだろう。

政策として行えることがあるとしたら、「起業しやすい環境の整備」などという漠然としたものではなく、ましてや起業件数の数値目標を立てることでもない。まずは「起業」を可能にするような「専門性」や「場所」をいかに若者に与えていけるかを考えることから始めるべきだろう。

会社は立ち上げることよりも、続けることのほうがよっぽど難しい。しかも、一度会社を立ち上げてしまったら元のレールに戻ることは難しい。技術者は別として、「起業に失敗した元経営者」を雇いたい会社は限られている。

特に有名大学に通う若者たちならば、大企業に入ったほうが確実に自分のキャリアを積むことができる。起業志向があるなら、そこで経験を積んでからスピンオフしたほうがいい。一か八かのベンチャーを立ち上げるリスクはあまりにも大きい。

だから「リスクを恐れるな」だとか「画期的なビジネスモデルを考えろ」というお題目だけを与えるばかりの「起業家教育」には何の意味もないだろう。
「起業」はあくまでもスタートであって、ゴールではあり得ない。そもそも「画期的なビジネスモデル」で成功している企業がどれだけあるのだろうか。そして本当に優れたビジネスモデルなのであれば、資本力のある大手企業に真似されるのが関の山だ。>(43~45頁)

よくバランスのとれた、現実的な物の見方だ。・・・・・・

このテーマについて深く知るための「連読」3冊
・上野千鶴子/古市憲寿『上野先生、勝手に死なれちゃ困ります 僕らの介護不安に答えてください 』光文社新書、2011年
・後藤和智『おまえが若者を語るな!』角川oneテーマ21、2008年
・文春新書編集部『論争 若者論』文春新書、2008年
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