「留職」という人材育成プログラムがある。大企業の社員が、アジア新興国に赴任し、一定期間、本業のスキルを活かして社会課題の解決に挑む、というものだ。現地の発展に貢献するのみならず、企業にとっては、新たな市場の開拓やグローバル人材の育成につなげることができる。
この留職プログラムを提供するのは、NPO法人クロスフィールズ。
青年海外協力隊として中東シリアで社会活動をし、その後、マッキンゼー&カンパニーで働いた小沼大地氏(31)が、2011年春、友人たちと創業した。小沼氏は、自身の経験から”ビジネスと社会課題解決のつながり”に気づき、企業とNPOなどあらゆる枠を超えた「留職プログラム」に取り組んでいる。
小沼氏が「留職プログラム」にかける想いと、これからの挑戦とは---
「いまの日本の若者は内向きで元気がない」という声をよく耳にするが、それは大きな誤解だと思う。僕の周りの20~30代の友人たちを見渡すと、日本社会の抱える課題に前向きに取り組んで新たな未来を切り拓こうとする、情熱溢れる人たちが数多くいる。事実、僕は社会課題に関心を持つ同世代を集めた勉 強会を、友人たちとともに6年以上に渡って運営しているが、そこには過去1,000人を超える人たちが集まり、日本の未来について熱い議論を繰り広げてい る。
ただ一方で、こうした若者たちの情熱は危機に瀕しているとも感じる。残念ながら、多くの場合、会社の中で働くことが、若者の元気や情熱を奪っていくからだ。「この会社で働くことで社会を変えたい」という意欲に満ち溢れて入社した若者たちも、入社して数年の月日が経つと、徐々にその目の輝きが失われてしまうことが多い。では一体なぜ、そんなもったいないことが起きてしまっているのか。
この背景には、会社で働くことの意義の喪失があると僕は思っている。パナソニックの創業者である松下幸之助さんの言葉を借りれば、元来、企業は「社会の公器」としての役割を担っている。企業の存在意義とは社会の必要を満たすことにこそあり、会社で働くこととは、「自分の周りにいる誰かの困りごとを解決すること」に他ならなかった。
しかし、こうした価値観は、企業が肥大化して社員と消費者との間にある隔たりが徐々に広がることによって、いつの間にか失われてしまった。一人ひとりの社員が行う業務は縦方向にも横方向にも細分化し、自分が事業の中でどんな価値を生んでいるかが見えにくくなった。また、グローバル化やIT化の進展は サービスの受益者の姿を遠ざけ、自分の仕事がいったい誰に対して価値を与えているかを分かりにくくしてしまった。
「働くことで社会に対して価値を発揮したい」という想いを持って会社に入った若者たちが、どこかで元気を失っているように見えるのは、このためだ。 だが、逆に言えば、彼らは今も内なる情熱を持っているわけで、そうした情熱に目を向けて、「働くことの意義」を取り戻すような原体験を提供することができれば、彼らの目は再び輝き出す。