佐藤優のインテリジェンス・レポート「張成沢の粛清」、「猪瀬直樹東京都知事の辞任」
【はじめに】
北朝鮮情勢を分析する場合、イデオロギー面を軽視してはなりません。金日成主義から金日成・金正日主義への転換は、ひじょうに重要な問題なのですが、なぜか日本のマスメディアや地域専門家は取り上げていません。独裁主義国におけるイデオロギーの機能に鈍感なのだと思います。
猪瀬直樹氏に関する分析メモは、あえて散文的にしました。私も政治問題について語るときは、認識の非対称性に陥らず、他者を攻撃すれば、少なくとも同程度の反撃があることを常に意識しながら、作家活動に従事したいと思います。

【佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol027 目次】
―第1部― インテリジェンスレポート
 ■分析メモ No.62 「張成沢の粛清」
 ■分析メモ No.63 「猪瀬直樹東京都知事の辞任」
―第2部― 読書ノート
■読書ノート No.82 『勝ち抜く力 なぜ「チームニッポン」は五輪を招致できたのか』
■読書ノート No.83 『僕たちの前途』
■読書ノート No.84 「金正日愛国主義を具現して富強な祖国の建設を進めよう――朝鮮労働党中央委員会の責任幹部への談話――チュチェ一〇一年(二〇一二)年七月六日」―第3部― 質疑応答
―第4部― 文化放送「くにまるジャパン」発言録
―第5部― 今後のラジオ出演、講演会などの日程
〔PHOTO〕gettyimages

分析メモ No.62 「張成沢の粛清」

【事実関係】
1.12月8日、北朝鮮・平壌市で行われた朝鮮労働党政治局拡大会議で、反党・反革命的な分派行為や不正・腐敗行為を理由に張成沢(チャン・ソンテク)が労働行政部長をはじめとするすべての役職から解任された。

2.12月12日、平壌市で特別軍事裁判が行われ、国家転覆陰謀行為などの罪状で張成沢に死刑判決が言い渡された。死刑は直ちに執行された。

【コメント】
1.
12月12日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の張成沢・前国防委員会副委員長(67)が処刑された。<12日に開かれた特別軍事裁判で、張氏がクーデターを画策する「国家転覆陰謀行為」を認めたとして死刑判決が下され、ただちに執行されたとしている。事実上のナンバー2だった張氏の処刑で今後、側近らの粛清が続くとみられ、金正恩第1書記の独裁体制が強まる見通しだ。/故金正日総書記の妹の夫で、正恩氏の義理の叔父にあたる張氏は正恩氏の「後見人」とされてきたが、反党・反革命的な分派行為や不正・腐敗行為があったとして、8日の朝鮮労働党政治局拡大会議で党行政部長などすべての職務から解任された。>(12月13日『朝日新聞デジタル』)

2.
処刑の翌13日の『朝日新聞』朝刊に、朝鮮労働党中央機関紙『労働新聞』電子版の2面に掲載された裁判所に連行される張氏の写真が転載された。注意深く見ると左頬が青紫色に変色している。かなりひどい拷問を受けたものと見られる。独裁国家であっても、このような拷問の痕跡が残るような証拠写真を公表することはまずない。国際的に非難されることが必至だからだ。そのような計算もできないほど、北朝鮮当局が焦っていることがうかがわれる。

3.―(2)
弾劾文ではさらに以下の指摘がなされている。

<張成沢は、政変を起こす時点と政変以後にはどうしようと考えたのかに対して、「政変の時期ははっきりと定めていなかった。しかし、一定の時期になって経済が完全に倒産し、国家が崩壊直前に至れば、わたしがいた部署とすべての経済機関を内閣に集中させてわたしが総理になろうと思った。わたしが総理になった後は、今までいろいろな名目で確保した莫大な資金をもって、ある程度生活問題を解決してやれば人民と軍隊はわたしの万歳を叫ぶであろうし、政変は順調に成功するものと打算した」と白状した。>

これは、「経済が完全に倒産し、国家が崩壊直前に至る」危険性があり、またクーデターの準備がなされるほど金正恩の権力基盤が不安定だということを、北朝鮮当局が認めていることに他ならない。この弾劾文を起草した人々は、対外的にどう受け止められるかについて、十分な計算をしていない。それくらい北朝鮮当局が張成沢処刑に動揺しているということだ。

4.―(1)
今回の事件は、ソ連でスターリンが権力基盤を確立する過程で、側近のブハーリンを粛清した事例に似ている。このときスターリンは、イデオロギー転換を行った。すなわち、マルクス主義からマルクス・レーニン主義への転換をスターリンが主張した。そして、マルクス・レーニン主義という名で、スターリン主義を確立したのである。北朝鮮でもこれによく似たイデオロギー転換が進んでいる。金正恩は、金日成主義を金日成・金正日主義に転換することを試みている。

5.―(1)
張成沢の処刑をきっかけに今後、北朝鮮では大規模な粛清が進められていくが、それと並行して金日成・金正日主義という新しいイデオロギーの構築が進められていくことになる。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら