読書人の雑誌『本』より
2014年01月02日(木)

『死なないやつら』著:長沼毅---ムダにスゴいやつら

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はじめは荒俣宏さんのようにシュールでメロウな「極限生物の博物学」をものするつもりだった。

「極限生物」とは、深海底や地底、南極・北極、高山、火山、砂漠など、極限環境に生息する生物のことである。人間にはとても耐えられない苛酷な環境でも住めば都、ところがどっこい生きている、そんな生きものは多くはないけれど少なくもなく、これまでにも「ヘンな生きもの」として、本や図鑑やテレビなどで紹介されてきた。

ただ、それらの極限生物は図鑑にもなるくらいだから、肉眼で見えるほどの大きさだ。動物も植物も含めた、いわゆる「大型生物」である。いや、クジラやゴジラほど大きくなくていい。生物学者は目に見えるものを大型生物という。逆に、目に見えないものは「微生物」という。生物学界に「中型」や「小型」はないのだ。

だが、目に見えるサイズの大型生物に「真の極限生物」はいない。もし、真の極限生物を見たいなら、顕微鏡が必要なのである。んっ、クマムシ? 確かにクマムシは顕微鏡で見たほうが可愛いけれど、微生物学の対象ではないし、動物学の対象でもない。クマムシは「クマムシ学」という高度にマニアックな学問の対象物だ。

学界のことはさておいても、クマムシには指で押せば簡単につぶれて死んでしまうという弱点がある。ところが、真の極限生物である微生物の世界には、押してもつぶしても死なないものがいる。地球上ではありえない、とんでもない大きさの圧力や重力でも生きていけるものがいる。そればかりか、人間の致死量の1000倍以上もの放射線に耐えられるのもいれば、2億年以上も地中で生存しつづけたやつもいる。

地球でふつうに生きていく分にはそんなにがんばらなくてもいいのに、なぜ彼らにはそんな、ムダとも思えるほど極限的な耐久力があるのだろう。

地球生物が生きていける最高・最低の温度、圧力、塩分、酸・アルカリ、乾燥、真空、放射線などなど│それらの記録はいずれの部門も、微生物が金銀銅メダルを独占している。ふだんは目に見えないほど小さいから気にもとめていなかった存在が、いったん気にしはじめると「これはヤバい」「こんなスゴいなんて知らなかった」ということになる。

それはあたかも、いまやAKB48のセンターを張る指原莉乃(さしこ)さんのようである。私がかつて「笑っていいとも!」で何度かご一緒させていただいたときは「さしこのくせに」とバカにされていた指原さん。彼女の「極限力」がようやく世間に認められてきたように、「微生物のくせに」といわれていた連中の極限力もようやく陽の目を見つつある。そんな時代の流れに押されて、この本を書くことになった。

『死なないやつら』
著者:長沼 毅
講談社 / 定価945円(税込)
 
◆内容紹介
超高温、超高圧、高塩分、強放射線、強重力…過酷な環境をものともしない極限生物たちの驚異の能力と、不可解きわまる進化。シュレーディンガーの生命観、エントロピー増大の原理を超えて40億年も地球にはびこる「不安定な炭素化合物」の本質に迫る。
 
 

 
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