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ブルーバックス ピラミッド

巨大ピラミッドを支える古代世界の超技術をご存知か

新発見の空洞以外にも謎はまだたくさんある
2017年11月2日付の英科学誌「ネイチャー」に、世界を驚愕させる論文が掲載された。観光地としても名高い、エジプトを代表するピラミッド・クフ王のピラミッド。その内部に、これまで誰も知らなかった旅客機大の巨大な「謎の空間」が広がっているというのだ。宇宙から降り注ぐ素粒子ミューオンを使って、このピラミッドを透視したのが、日本の名古屋大学と高エネルギー加速器開発機構の研究チーム。日本発の研究が、世界を沸かせている。そんなピラミッドの謎に、建築技術の側面から迫った『古代世界の超技術』の著者・志村史夫氏が、その「超技術」の魅力を語った。

人々を魅了してやまない「ウルトラテック」

私は長年、物理学を生業とし、特に現代文明の支柱”ハイテク(高度先端技術)”のエレクトロニクスに結びつく半導体に関する研究に従事した者です。

このような私が上梓したのが『古代日本の超技術〈改訂新版〉』(ブルーバックス)です。「旧版」(1997年発行)で述べた縄文時代の技術、適材適所、木の加工、倒れない五重塔、朽ちない鉄、奈良の大仏に、最近行った「日本刀の科学的研究」、「古代瓦の科学的研究」の知見を加筆しました。

それらは、現代の”ハイテク”の目から見て”あっと驚くご先祖様の智慧”ばかりです。『古代世界の超技術』(ブルーバックス)は、この『古代日本の超技術』の姉妹編ともいうべきものです。

歴史探訪を趣味の一つとする私は、いままでに国内外の数多くの歴史的建造物・古代遺跡を訪ね歩きました。私はその都度、コンピューターはもとよりクレーンなどの大型土木・建築機材が存在しなかった古代の技術に驚嘆し、古代の技術者に畏敬の念を抱きました。

我田引水と思われるかも知れませんが、歴史的建造物や遺品を見る時、文献主義の考古学者や歴史学者とは異なるハイテク分野にいた者だからこそ”見える”、”感じる”、”感心する”、”驚く”ことは少なくないのです。古代の遺物の構造やしくみ、それを支える道具や技術、それらの根底にある科学について、より深く理解できるからだと思います。

私は、それらの”作品”を目の前にするたびに、コンピューターやさまざまな機材に頼る現代人ではとても及ばない、古代の技術者の信じ難いほどの能力を摩訶不思議とさえ思います。それらはまさに”ハイテク”を超えた”ウルトラテク(超技術)”と呼ぶにふさわしいものです。

 

私が古代日本と古代世界の”超技術”にひたすら感心し驚異を覚えることは共通なのですが、両者の間には顕著な差があります。

古代日本の技術の基盤が「木の文化・文明」にあるのに対し、古代世界のそれは「石の文化・文明」にあることです。もちろん、それらはそれぞれの風土、地勢、地理と不可分のものです。

私がいつも圧倒されるのは、日本にはない古代世界の巨石・巨大遺跡です。

「宇宙人業」にも思えるテクノロジーを解き明かす

エジプトのピラミッド、ギリシャのパルテノン神殿、イタリアのフォロ・ロマーノ、ペルーのクスコ、マチュ・ピチュの遺跡……。

これらを目の当りにし、コンピューターやさまざまな機材の”文明の利器”に頼る現代人の経験から考えると、私には古代世界の巨石・巨大建造物がとても”人間業”には思えず、いっそのこと”宇宙人業”にしてしまいたい誘惑に駆られます。

しかし、事実として、「木の文化・文明」の古代日本の技術者が現代日本人がもっていない智慧と技術をもっていたように、「石の文化・文明」の古代世界の技術者も現代人が失った智慧と技術をもっていたと考える方が理性的です。

とはいえ、さまざまな”ハイテク”を謳歌する21世紀文明の視点からみても、依然として謎に包まれていることは少なくないのですが、私は理性的に、その”謎解き”に挑戦してみました。

結論をいえば、かなり満足できる”謎解き”ができたと思います。その「報告」は『古代世界の超技術』を読んでいただきたいのですが、”謎解き”の過程で、もっとも勇気づけられたのが、現代の石職人の生の言葉でした。

古代の技術者たちは、現代文明の”利器”の到達点ともいえるコンピューターやさまざまなハイテク機材をもたずして、現代人の私がとても”人間業”には思えず”宇宙人業”にしてしまいたい誘惑に駆られるほどの”作品”を、なぜ遺せたのでしょうか。

現代世界では、何事も「経済性」、「効率」を最優先し、ともすると目先のことさえうまく繕えば通用するような風潮がありますが、古代の技術者たちは、それ以前に、彼らに”仕事”をさせた古代社会の指導者たちが「経済性」、「効率」などを考えることなく、後世に遺せる本当によいものを求めたからでしょう。

技術者たちも、限られた材料、機材の中で、精一杯の智慧を働かせ、急ぐことなくたっぷりと必要な時間を費やしたからでしょう。そして、彼らは指導者、技術者としての誇りとそれに伴う責任感をもっていたはずです。

私がいま思うのは、古代の”超技術”を”謎”にしたのは、さまざまな”文明の利器”と過度の”情報”が退化させた現代人の智慧と何よりも優先されてきた「経済性」、「効率」だったということなのです。

(しむら・ふみお 静岡理工科大学教授) 

最先端の結晶工学と驚くべき共通点をもっていた「ピラミッドの構造」ほか現代のハイテクを知り尽くす半導体研究者が読み解く「技術史ミステリー」

『古代世界の超技術』
著者:志村史夫
講談社 / 定価924円(税込)


◆内容紹介
最先端の結晶工学と驚くべき共通点をもっていた「ピラミッドの構造」。ボイル・シャルルの法則を応用していた「古代ギリシャの自動扉」。鉄筋コンクリートをはるかに上回る「ローマン・コンクリート」の強度。最新の観測装置と0.0002日の誤差しかない、超精密な「マヤの天文学」。カミソリの刃さえ通さない、「インカの石組み術」の驚異。現代のハイテクを知り尽くす半導体研究者が、自ら体験・実験して読み解く「技術史ミステリー」第2弾!

志村史夫(しむら・ふみお)
1948年、東京・駒込生まれ。名古屋工業大学大学院修士課程修了(無機材料工学)。名古屋大学工学博士(応用物理)。日本電気中央研究所、モンサント・セントルイス研究所、ノースカロライナ州立大学を経て、現在、静岡理工科大学教授、ノースカロライナ州立大学併任教授。応用物理学会フェロー。日本文藝家協会会員。日本とアメリカで長らく半導体結晶の研究に従事したが、現在は古代文明、自然哲学、基礎物理学、生物機能などに興味を拡げている。半導体、物理学関係の専門書・参考書のほかに『古代日本の超技術 改訂新版』『いやでも物理が面白くなる』『アインシュタイン丸かじり』『漱石と寅彦』『人間と科学・技術』『スマホ中毒症』などの一般向け著書も多数ある。