官々愕々 軽減税率と「新聞」

来年度の税制改正大綱が決定された。与党内で最後までもめた消費税の軽減税率制度の導入については、「税率10%時に導入」すること、その詳細な内容については、「平成26('14)年12月までに結論を得」ることとされた。

導入時期について「10%時に」というわかりにくい表現で、「10%に上げるのと同時になのか」、それとも「10%である間ならいつでもよいのか」。どちらにも読める玉虫色の決着にすると同時に、これから1年かけて対象品目などの具体的な内容について検討することになったのだ。

今回の決着の意味はどこにあるのか。制度論については様々な論評がなされているが、ここでは、その政治的効果について考えてみたい。

まず、誰でも思いつくことは、軽減税率の対象品目を決める過程で、様々な業界から、自分たちの商品、サービスに軽減税率を少しでも早期に適用してほしいという陳情が出るということだ。この機会に軽減税率の対象から漏れれば、後から対象に加えてもらうのは非常に難しい。その意味で、業界にとっては1年限りの予算などに比べてはるかに重要度の高い陳情項目となる。逆に言えば、官僚と与党政治家にとっては、1年間、様々な業界と駆け引きしながら普段に比べて何倍もおいしい利権の蜜を吸う、またとない機会が与えられるということだ。'14年末と言えば、'15年春の統一地方選の準備の大詰め段階なので、政治資金集めが必要な時期だから、その意味でもいいタイミングだ。

しかし、安倍政権にとってより重要なのは、この問題を新聞業界との駆け引きに使えるということである。「米、味噌、醤油、新聞など」という表現を聞いたことがある人は多いだろう。生活必需品として新聞業界が唱える例である。

しかし、新聞が生活必需品だと考える人は意外と少ないのではないか。若者は少なくとも新聞などいらない、という人が多い。ネットで十分というわけだ。新聞業界は、そんなことを放置していては活字文化が維持できないとも言うが、本当にそうだろうか。文字は紙媒体でなければ伝わらないと言っているようなものだが、医薬品のネット販売は危険だが薬局なら安全だという、最近の規制改革の議論にどこか似てはいないか。もっともらしい理由で、既得権を維持しようということではないか。

そもそも日本の新聞が真実を報道しないことは、先の福島原発事故で明らかになった。世界中から来た特派員が日本の報道機関に対して、心底怒りを抱いていたあの時の状況。海外マスコミのウェブサイトで刻々と流れる、日本の新聞とは正反対の「メルトダウン」の記事や、放射性物質の拡散予測の映像を見ていた筆者としては、真実をより早く知る機会を与えてくれたネットへの接続料の方が国民にとってははるかに重要だと思える。こうした状況を考えれば、ネット関連のサービス料金に軽減税率を適用せずに日本の新聞に軽減税率を適用する理由は全くないだろう。

安倍政権は、国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画の3点セットを決めた。これから、集団的自衛権の行使、武器輸出三原則の見直し、さらには原発再稼動など国民世論の反発を呼ぶ政策が目白押しだ。

安倍政権は、「軽減税率しか頭にない」という新聞業界の本音を見透かして、強行策を連発するだろう。そんな時、新聞は、正々堂々と客観的論陣を張れるのか。期待はしていないが、もし、それができたら、新聞に軽減税率を認めてもいいかもしれない。

『週刊現代』2014年1月4日号より

話題作『原発ホワイトアウト』著者・若杉冽氏推薦! 「霞が関には古賀さんを隠れキリシタンのように慕っている官僚たちがいる。原発の裏も表も全部わかる必読書」

原発は「倫理的」に許されないエネルギーだという議論をすると、それは「感情的」あるいは「主観的」な議論であるというレッテル張りをされる傾向があります。経済論や技術論は受け入れられても倫理論は受け入れられないのが現状だと言ってよいでしょう。しかし、倫理の問題は、経済や技術の分野でも非常に重要な問題です。二人の元総理(小泉氏と細川氏)が期せずして脱原発を「人の生き方の問題」「倫理の問題」として語り始めたことは、極めて重要な意味があります。私が小泉氏や細川氏に期待するのは、大きな哲学、「脱原発の倫理観」を国民に提示し、国民的大議論を巻き起こすことです。議論の末、国民の大多数が新しい日本の生き方、「脱原発と再生可能エネルギーで、自然とともに生きる国日本」を目指すという共通の目標に到達すれば、その時初めて、脱原発が可能になるのだと思います。――<「はじめに」より抜粋>

※本書は2013年5月に先行発売した電子書籍『原発の倫理学 古賀茂明の論考』の内容を大幅にアップデートした上で再編集したものです。
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