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世界中のどこも、経験したことがない社会「認知症800万人時代」この国に何が起きるのか 65歳以上の4人にひとり、80歳以上は2人にひとり
週刊現代 プロフィール

他の認知症の方も、騒音をたてたり、79歳の男性は女性入居者の家のドアの前に居座るなど、ストーカーまがいの行為をしたり、問題が絶えない。このまま続くなら、強制退去も選択肢の一つだと思っています」

ここ近年で、認知症が爆発的に増加している。今年6月に発表された厚生労働省研究班の調査結果によると、'12年時点で65歳以上の認知症患者は約462万人、予備軍(生活に支障をきたさない程度の軽度認知障害)を含めると、860万人以上。実に、65歳以上の4人にひとりが認知症ということになる。

「80歳以上になると、予備軍を含めれば2人にひとりにまで増えます。私は、高齢になれば認知症はかかって当然の病気と思って、患者さんと向き合っています。でも、大病院のような3分診察では見抜けない。自分が認知症と知らない方も多いと思います」(在宅医療専門の「たかせクリニック」理事長・高瀬義昌医師)

認知症は、今のところ進行を遅らせる薬はあっても、治す方法はない。現在「予備軍」と言われる人も、いずれは認知症の症状が進行していく。800万人以上が認知症を発病したら、この国は一体どうなってしまうのか—。

認知症高齢者の理屈が通用しない言動は、時に危険を伴い、介護者の神経をすり減らす。認知症の代表的な症状で、アテもなくさまよう「徘徊」が、その一つだ。78歳の父親の徘徊に悩まされた、吉田正志さん(54歳・仮名)が語る。

「ある夜、10時過ぎに父親の寝室に様子を見に行くと、姿がなかった。パジャマ姿でお金も持っていないし、近所にいるだろうと思っていたんですが、一向に見つからない。これはヤバいと警察に捜索願を届け、家族は眠れぬ夜を過ごしました。そして翌朝、8km離れた隣の区の警察から、見つかったと電話があったんです。なんでも、知らないお婆さんと手を繋いで歩いているところを保護されたという。近所を歩いていたら、同じく徘徊していたお婆さんと出会い、デートのつもりで遠くまで行ってしまったらしい。これを境に、昼夜を問わず徘徊するようになりました」

施設にも入れない

吉田一家は、もう手におえないので、父親を施設に預けたいという。このように徘徊に悩み、施設に入れるケースが増加していると語るのは、千葉県の特別養護老人ホームの職員だ。

「徘徊癖のある入居者が増えたので、うちでは入居者の安全のためにも、両手をベッドに縛って拘束をするようになりました。人員が足りないので仕方ない。どこも人手不足ですから、徘徊をする入居者に限って拘束する施設は増えていくのではないでしょうか」

身動きが取れないよう体を縛りつけるのは、人間の尊厳にかかわる重い問題だ。だが、放っておけば命にかかわる事故に繋がる、という指摘もまた重い。