NHK新会長・籾井勝人氏はどうやって視聴者の「信頼」を獲得するつもりなのか

NHKの新会長が、三井物産元副社長で日本ユニシス特別顧問の籾井勝人氏に決まった。JR東海出身で、1期三年を務めた松本正之会長の後任として、1月末に就任する。

就任決定にあたり、新聞各紙はご祝儀的に歓迎するような記事を載せ、本人も大張り切りに見えるが、現実には前途多難だろう。

誰がトップに立っても論調を変えることはできない

籾井氏はNHK内での記者会見で、「昔、NHKの言うことは正しいと信じていた。もっと信頼を高めるNHKにしたい」と、抱負を語った。

まるで今のNHKが正しくないと言わんばかりだ。

事実、政権内には特定秘密保護法などをめぐるNHKの報道が偏っているとの批判があり、財界にも原発を否定するような番組などに不満がある。どうやら、そんな論調を変える腹づもりらしい。

ところが、皮肉なことに視聴者側の見方は異なり、NHKが実施した7月の世論調査によると、8割近くの視聴者が放送全般について「公平・公正」と答えている。偏っているのは政権側と財界側であるようだ。

では、実際に籾井氏がNHKの論調を変えられるのかというと、それは無理だろう。そもそも安倍首相との距離が近い古森重隆・富士フイルムホールディングス会長に口説かれて就任した先代の会長・福地茂雄氏(元アサヒビール社長)も、やはり安倍首相との関係が深いとされるJR東海・葛西敬之会長から送り出された松本会長も、当初は放送内容を掌握することを試みたようだが、適わなかったのだ。

11月に新会長人事の取材を進めていた際、ある中堅職員が苦笑混じりにこう語った。

「外部から来る会長は就任するまで分かっていないようなのですが、論調は上からの号令によって決まるようなものではありません」

内部でプロパーの誰かが「原発は否定しろ」などと指示している訳でもない。NHKの報道マン、ドキュメンタリー制作者たちの仕事は、裁判官の自由心象主義と似ていて、自分の良心と正義に従って番組制作にあたっている。仮に上層部が「オスプレイは安全だし、原発には賛成しろ」と命じようが、裏付けるファクトとエビデンスがなければ、盲従するわけがないのだ。それは誰がトップに立とうが同じこと。

籾井氏は、約6200人の社員がいる三井物産で副社長まで務め、「僕の(会社員時代の)ストーリーを書いたら、『半沢直樹』より面白いかも知れない」(12月21日付毎日新聞朝刊)などと語っているぐらいだから、行動力や突破力には相当の自信があるらしい。

けれど、いくら辣腕だろうが、NHKの職員約1万人の良心やイズムまで変えることは出来ないだろう。それでも放送内容に踏み込もうと強権を発動した場合、労使関係が悪化し、組織の統治すら出来なくなる怖れがある。

NHKの労使関係はこのところ安定しており、松本氏は賃金カットも実現させたが、番組内容に正当性のない介入をされたら、さすがに現場は黙っていないはずだ。そこは最後まで譲れない生命線なのだから。大きな労使対立が存在しない商社とは風土がまったく違う。

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