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特別対談 田﨑史郎×福田和也 安倍晋三と岸信介 タカ派の血と、格の違いについて

田崎 特定秘密保護法案の強行採決で、安倍内閣の支持率は大きく下がって、一部の調査では50%を切りました。それでも、まだ不支持の32・7%をかなり上回っている。

福田 官邸周辺でのデモを見て、岸信介政権を思い出しました。岸は、安保改定で当時の若者から猛反発を受けましたが、彼の場合最初から支持率はそんなに良くなかったはずですよね。まだ調査自体がなかったでしょうけど。

田崎 月例の内閣支持率調査が始まったのは岸政権の終盤ですが、当時、自民党が支持率を気にすることはありませんでした。岩盤のような保守支持層があり、思い切ったことができた。失敗しても社会党(当時の野党第一党)に政権が移るわけじゃない、と。

福田 安保改定の夜、岸は官邸のテレビで巨人対阪神戦を見て、「球場は満員の盛況だ」—つまり、声なき大多数の国民に自分は支持されているのだ、と言ったそうですからね。

田崎 今回安倍政権には、そんな余裕はなかったですね。重要な法案のときは、これはこういう意図の法案で、と官僚にマスコミ各社へ根回しさせるものですが、安倍総理はそれをやらなかったので、強行採決で押し切らざるを得なくなった。

福田 ギリギリまで説明もせず、サボってのんびりしていたという印象があります。でも国民も国民で、冷めるのが早い。あれだけデモがあったのに、いま永田町を歩くと、静かすぎてちょっと驚きますよ。

田崎 可決翌日の朝に官邸周辺に行ったら、もうすっかり潮が引いていた。安保改定の時の官邸周辺は凄まじかったですが、それと比べると弱いですね。原発再稼働反対のデモにしても、マイクの音量は昔より大きいけれど、はるかにおとなしい。

福田 岸の時は、警察官ですら暴徒が怖くて半分は逃げたので、給料を2倍に引き上げたそうです。安保改定が迫ると官邸の職員がみんないなくなって、最後は岸と佐藤栄作(岸の弟、元総理)の二人しか残らなかったんですよ。暴徒が乱入して来たら死ぬ可能性もあったのに。

そういう意味で、岸の時代より安倍総理はだいぶやりやすいし、覚悟も必要ない。ただ、本当に歴史に残るような仕事をする条件は調っていない、と思います。

田崎 やりやすさという点では、今は野党勢力も圧倒的に少ないですね。維新の会やみんなの党にいたっては、政党の体をなしていないですから。

福田 六〇年安保のときは、自民党内部にも河野一郎をはじめ、面倒な派閥の領袖がいっぱいいて、かなり大変だったと思うんですよね。それをまとめていた岸に比べれば、党運営の難易度は低い。

総理執務室には岸の写真が

田崎 実際、今は政高党低どころか、官邸一極集中です。自民党は官邸と安倍さんを見て動いている。派閥の力も弱まっていますから、カネの配分もポストの配分もできず、どうしても官邸の顔色を窺う。衆参両方でこれほど勝ったケースは少ないですから、選挙で大勝した総理というのがまだ効いているんでしょう。

福田 安倍政権に隙があるとすれば、私はもっとも可能性が高いのは国際情勢の変化だと思います。中国・韓国との有事が現実化すれば真価が問われる。

岸時代にも、韓国とは関係が良くなかったですよね。その後、朴正煕大統領が出てくると支援するようになったわけですが。

田崎 日韓基本条約が1965年、日中国交回復が1972年ですから、1950年代はアメリカと安定した関係を築くことが最優先だったんでしょう。

現在に話を戻すと、アメリカの力は以前に比べて弱くなりました。オバマ大統領がOKと言った法案が議会でひっくり返されるなど、大統領の指導力が落ちている。TPPで日米が合意しても、アメリカ議会でそのまま承認される保証はまったくないわけです。

福田 中国も韓国もいま、政治的にかなり不安定ですね。両国とも今の政権は、ナショナリズムを煽ることしかできていない。

田崎 中韓について官邸は、中国は力がある国だからちゃんと付き合うけど、韓国は些細な問題だという認識です。中国とはゲームが成り立つ、でも韓国はいきなり魚の輸入を禁止したり、裁判所が戦後賠償をひっくり返したりして何をやってくるか分からないから、もう言いたいだけ言ってください、と考えている。

福田 そういう姿勢だからか、安倍総理は海外メディアに「ウルトラナショナリスト」なんて書かれていますよね。でも彼は確かにナショナリストだろうけど、御曹司だからそんなに派手には傾かないかな、と個人的には思います。

自分がちゃんと遇されなかったという鬱屈があればヒトラーみたいになるかもしれませんが、今のところそれはないはずです。まあ、岸の孫だということが一番辛いのかな。こうしていろいろと比べられて。

田崎 安倍総理は、あれほど言いながら靖国参拝は実行していない。そのあたりはリアリストだと思います。右の人が支持しているのは、安倍総理に代わる右派がいないからですよ。石破茂、石原伸晃、林芳正なんかは総理よりリベラルだから。

福田 憲法改正への執念は、岸の刷り込みなのかな。岸にとって悲願だったでしょう、改憲は。

田崎 安倍総理は岸の写真を執務室に飾っているんです。なぜ父親(安倍晋太郎・元外務大臣)の写真じゃないのか、と周囲から言われている。やはり、そういうことなんでしょうね。

総理の考えているスケジュールは、再来年の自民党総裁選で再選され、2016年の衆院選・参院選を乗り切った後、満を持して発議、というものだと思います。最大のハードルは国民投票。そこで過半数の支持がなければいけない。惨敗したら自民党政権もおしまいですから、やるなら最後に、という戦略でしょう。

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