『気候変動はなぜ起こるのか』
グレート・オーシャン・コンベヤーの発見
ウォーレス・ブロッカー=著 川幡穂高ほか=訳

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急激な気候変動は
海洋大循環によってもたらされた

 海洋は水温と塩分濃度の違いによって、約1000年のオーダーで沈み込みと湧昇をしながら、地球規模の大循環をしている。ブロッカーはこれを「グレート・オーシャン・コンベヤー」と名付け、ミステリアスな気候変動との関係を明らかにした。


まえがき

 日々増加する化石燃料由来の二酸化炭素の排出が世界に及ぼしうる影響への関心が高まる今、それに呼応するかのように古気候の研究活動も盛り上がりを見せている。とどのつまり、これらの研究で得られた情報が、まだ見ぬ明日への準備にきっと役に立ってくれる、そんな思いが背景にあるからだ。

 しかしながら、我々が現状最も有力な手がかりとする大気-海洋カップリングモデルによるコンピューターシミュレーションですら、古気候記録における様々な重要な特徴を再現できずにいる。それは現代世界における気候現象を加速・減速させるようなフィードパックの仕組みやそのプレイヤーの多くが、いまだに明らかになっていないことによる部分が大きい。だからこそ、大気と海洋という、2つの異なった気候システムへのアプローチの間に存在する相互作用を解明することは、現代科学の1つの重要な使命なのである。

 私が地球の大気海洋システムには複数の安定した駆動モードがあることを最初に提案できたという事実は、私自身とても幸運であったと思う。ある意味、量子化されたのである。

◇海洋大循環──グレート・オーシャン・コンベヤー

 私がこれに初めて気付いたのは、グリーンランドの氷床に見られた突発的な寒冷化の理由を探していた、その時に遡る。私はこの一見偶発的に見えるイベントは、実は海洋循環の要である大西洋子午線方向の循環の乱れに関係しているのではないかと考えたのである。大西洋を北上する比較的温暖な上層水が最北端に到達すると、やがて寒冷な冬の風にさらされ、冷却作用を受ける。冷却が進むと上層水はその密度を増し、臨界に達するや否や深層へと潜り始め、図1に示されるように南下を始める。

 

 The Natural History Magazineで発表した記事のなかで、私はこれを「The Great Ocean Conveyor(海洋大循環)」と名付けた。そしてこの大きな循環が突然閉ざされてしまったとき、グリーンランドで見られたような急な寒冷化現象を招くのではないかと考えたのである。このように示した私の簡易的な模式図に異を唱えたのは、コンベヤー(海洋大循環)における深層流が母国の真下を流れていることに怒ったニュージーランドの女性くらいだ。

 この本では、私の発見を取り巻く状況をわかりやすく整理することに加え、その後どのようにこの仮説がさらなる進化を遂げたのかにも言及しようと思う。というのも、この発見に辿り着くまでの道のりは決して一本道ではなく、むしろ行き止まりや真っ暗な路地だらけの、極めて迷い多き道のりであったからである。

 これから述べるであろうコンベヤーの逆転現象は、むしろ私の頭の中で絶えず起きていたのだと言いたいぐらいだ。それはもう、あきれてしまう程の方向転換を経てここまできたわけだが、私はこれっぽっちも恥ずかしいとは思っていない。それは、このように濃霧の中を手探りで進むような作業が研究というものであり、その積み重ねこそが、この壮大な地球環境を解明していくのだと私自身強く信じているからである。

 そう、総じて結論ばかりがはっきりと見え、その周りはてんでぼやけてしまっているものなのだ。私たちはそこに向かって絶えず懸命に仮説を立て、立てては間違うことを繰り返す。ひたすら試行錯誤を繰り返しながら、正しい道筋を導きだすのである。はたして、この数えきれない間違いは無駄だと言えるだろうか? いや、その誤りはむしろ、私たちをより確かな結論へと向かわせる大事な手がかりとなるはずで、ある。