川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」

ああ、こんな時代に生まれなくてよかった---"正しくない鑑賞者"が初めて見た小津映画『彼岸花』

2013年12月20日(金) 川口マーン惠美
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神保町シアターで、11月より12月にかけて小津映画特集をやっている。毎日、4~5本ずつ上映しており、作品のほとんど、しかも、無声映画まで見ることができる。

小津安二郎監督は、1903年12月12日に生まれ、1963年の同じ日、つまり、還暦のお誕生日に亡くなった。つまり、今年の12月12日は、生誕110年、かつ没後50年で、私はまさにそのお誕生日であり命日である記念すべき日に、小津映画を見に行った。根っからのファンがやりそうなことだが、私が小津映画を見たのは、実は初めてだ。

人生60年。その間に小津は54本もの映画を作った。戦争中は、召集されて、中国やらシンガポールにも行っている。昔は、時間の流れ方が違ったのだろうか。なぜ、これほど短い間に、これほど多くのことを完遂できたのか。

そういえば、メンデルスゾーンは38歳、モーツァルトは35歳、シューベルトは31歳で亡くなったが、彼らも数えきれないほどの作品を残している。メンデルスゾーンの無くなった26年前、のちのヨーロッパ世界を決定的に変革したナポレオンは、51歳で没した。

それに比べて、私は何と無為に生きていることかと思う。私が31歳で死んでいたら、何もせずに死んでいたところだった。しかも、この先100歳まで生きたとしても、有意義なものを残せそうな気はしない。まあ、私のことはどうでもいい。小津映画だ。

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