野球
二宮清純「“ミスター赤ヘル”乱闘秘話」

主砲への執拗な内角攻め

“ミスター赤ヘル”と呼ばれた元広島の主砲・山本浩二さんが神宮球場でヤクルトの西井哲夫投手から頭部への死球を受けたのは1980年7月15日のことです。首位広島は2位ヤクルトと優勝争いをしていました。

 結果的にこの年、広島は73勝44敗13分けでリーグ2連覇を果たします。セ・リーグでは巨人以外で初の連覇でした。

 山本さんは絶好調で打率3割3分6厘、44本塁打、112打点でホームランと打点の2冠王、そして初優勝した75年以来2度目のMVPに輝きました。セ・リーグにおける当時の最強打者でした。

 当然のことながら、他球団の山本さんへのマークは厳しさを増します。この日も第1打席から第4打席まで、全て敬遠の四球。それも、普通の四球ではありません。

 山本さんは振り返ります。
「普通、敬遠というたら外角やろう。ところが全部、内角にきたんや。オレの体を開かせようとしたんやな。もちろんバッテリーが勝手に、そんな配球をすることはない。間違いなくベンチからの指示やったと思うな」

 あまりにもしつこい内角攻めにカチンときた山本さん、胸元のボールを強引に狙い打ったそうです。山本さんには「内角打ちの名人」と呼ばれた山内一弘さんから教わった内角打ちの“秘術”がありました。ステップした左足は外に開いても腰は開かず、ヒジをたたんでバットを内側から振り抜くのです。

 快音を発した打球はレフト上空へ。打球はかすかにポールの外を通過し、ヤクルトベンチは肝を冷やしました。続く第5打席目、逃げようもないボールが山本さんの側頭部を直撃しました。