官々愕々 成長戦略なき「成長戦略国会」

安倍総理は、先の国会を「成長戦略国会」と名づけた。しかし、成長戦略の中身は完全に空っぽ。改革とは名ばかりのバラマキだけが目立つ内容となっている。

思い出してほしい。政権発足と同時に大々的に打ち出されたアベノミクス。その第三の矢となる「成長戦略」を策定するために鳴り物入りで作った規制改革会議や産業競争力会議は、完全に失速。6月の成長戦略の目玉が、医薬品のネット販売全面解禁の「口約束」だけという無残な内容で終わった。

さすがに市場も失望し、総理の発表会見中に株価大暴落という大失態となった。そのとき、狼狽した官邸が慌てて打ち出した戦略が、「秋に思い切った成長戦略を出す」という先延ばし作戦だった。

しかし、この秋の「成長戦略国会」では、6月に「全面解禁」が約束されていたはずの医薬品のネット販売の議論が蒸し返され、しかも、全面解禁どころか、現状より規制を強化するというオチがつく笑い話で終わった。

マスコミを騙して「戦後農政の大転換」と見出しをつけさせた「減反廃止」も、本コラム(12月14日号)で指摘したとおり、実質的な減反維持・米価維持政策で、バラマキはさらにひどくなるという驚きの内容になった。いずれも官僚の仕業だ。

今回の成長戦略の目玉とされる産業競争力強化法でも、企業に税金をまけるというバラマキと経産省などの官僚が企業再編を誘導するという、官僚主導の産業政策の完全復活になっている。

規制改革も、国家戦略特区法を作っただけ。名前だけは立派だが、要するに地域限定で痛みを伴わないことだけやろうという内容だ。企業の申請があったら、各省縦割りで官僚が個別にさじ加減をして部分的に規制を緩和するという、官僚利権を拡大するだけの制度が産業競争力強化法に潜り込むというおまけもついた。

こんな内容ではさすがにまずいと、安倍総理自身も気づいたのだろうか。国会閉幕の記者会見で、「安倍政権の改革に終わりはない」と予防線を張った。これは明らかに、6月の失敗を念頭に置いた官僚の作文だ。「これが安倍政権の成長戦略だ」と言ったら、市場はまた失望売りになるかもしれない。だから、年明けにもっと具体的なものが出てきますよ、と言って、先延ばし戦術に出たのだ。

「改革に終わりはない」と言って、次から次に大きな改革を行うという決意表明のように見えるが、実際は、改革をサボっているから一向に進まない。つまり、入り口で立ち止まっているから、終わるはずがないというだけのことだ。官僚の作文にそのまま乗ってしまったというのがよくわかる。

成長戦略がこんな危機的状況なのに、臨時国会後半の安倍総理の頭の中は、特定秘密保護法案のことで一杯だったのだろう。幸か不幸か、マスコミの関心もそこに集中してしまったので、「成長戦略不在の成長戦略国会」だったのに、殆どその点についての批判は出なかった。

一方、成長戦略のジョーカーとして登場したのが、「原発推進」だ。エネルギー基本計画の策定作業が何故か、原発事故最大の責任者で、電力会社の手先となってきた経産省によって進められている。ついにその原案が表舞台に出てきた。何と、脱原発の方針を完全に捨てて、原発の更新、さらには新設まで認めようとしている。経団連企業にとっては、願ってもない「成長戦略」だ。

その決定は、いつになるのか。最高の「クリスマス・プレゼント」か「お年玉」になるのでは、と財界の期待だけが膨らんでいる。

『週刊現代』2013年12月28日号より

話題作『原発ホワイトアウト』著者・若杉冽氏推薦! 「霞が関には古賀さんを隠れキリシタンのように慕っている官僚たちがいる。原発の裏も表も全部わかる必読書」

原発は「倫理的」に許されないエネルギーだという議論をすると、それは「感情的」あるいは「主観的」な議論であるというレッテル張りをされる傾向があります。経済論や技術論は受け入れられても倫理論は受け入れられないのが現状だと言ってよいでしょう。しかし、倫理の問題は、経済や技術の分野でも非常に重要な問題です。二人の元総理(小泉氏と細川氏)が期せずして脱原発を「人の生き方の問題」「倫理の問題」として語り始めたことは、極めて重要な意味があります。私が小泉氏や細川氏に期待するのは、大きな哲学、「脱原発の倫理観」を国民に提示し、国民的大議論を巻き起こすことです。議論の末、国民の大多数が新しい日本の生き方、「脱原発と再生可能エネルギーで、自然とともに生きる国日本」を目指すという共通の目標に到達すれば、その時初めて、脱原発が可能になるのだと思います。――<「はじめに」より抜粋>

※本書は2013年5月に先行発売した電子書籍『原発の倫理学 古賀茂明の論考』の内容を大幅にアップデートした上で再編集したものです。