第61回 エルヴィス・プレスリー(その三) カネは尽き、一人ぽっちになる・・・・・・クスリに頼った、肥満体の「悪夢」

一九七七年の夏、エルヴィスにとって、夜は最悪の時間帯になっていた。
今日も眠れないのではないかと、毎晩危惧し、気がつくとありったけの薬をかきあつめて呑み込んでいた。
そして悪夢。
彼の夢は、おなじみのものだった。

観客がブーイングをはじめ、エルヴィスにむかって、ハンバーガーやコカ・コーラを投げつける。
罵倒と嘲弄の嵐のなか、エルヴィスはステージからひきずり下ろされる。金は無くなり、ファンに見捨てられ、大佐にも相手にしてもらえなくなり、一人ぽっちになる・・・・・・。

八月十六日から、エルヴィスはツアーに出る事になっていた。今度のツアーは、これまでで最高のステージになるだろう、とエルヴィスは、機嫌よく予言した。
けれど、『最高』のステージのための準備は、一切しなかった。
運動はまったくせず、スタッフたちが提案した、新曲の導入にも興味をもたなかった。

父、ヴァーノンがやってきた。
息子の貌を看て狼狽えた。青ざめて、顔に老人のような深い皺がよっている。

「ダイエットをはじめたんだよ、液体蛋白ダイエットというんだ」

父は、それはいい、と励ました上で、一息おいて「運動をする事も大事だよ」と云った。
注文していたバイクが、グレイスランドに届いた。エルヴィスはフュエルタンクを撫でながら云った。

「一周り乗ってみたいから、ジャンプスーツを持ってきてくれないか」

スーツに、エルヴィスは足を入れようとしたが、どうしても入らなかった。
「太りすぎだな」
エルヴィスは、従弟のビリーに云った。

ビリーはエルヴィスの気分をかえようとして、麻薬取締官からプレゼントされたジャンプスーツをクローゼットから持ってきた。
スーツを着るのを手伝い、足首が腫れているために自力ではジッパーを上げられないエルヴィスに、エナメルのブーツを履かせた。

歯科医のホフマンがやってきて、歯の掃除をし、小さな虫歯、二つばかりを治した。