第60回 エルヴィス・プレスリー(その二)
牧場に二十数台の車、そしてキャデラック。父親も仰天した派手な「浪費ぶり」

契約どおり、エルヴィスはナッシュビルのスタジオで、レコーディングをする事に同意した。
カントリー・ミュージックの聖地とも云うべき、ナッシュビルに赴けば、新しい境地が開けるのではないか、と期待したのである。

パーカー大佐は、バズ・ケイソンワークショップに一週間の予約をとった。
レコーディングは、十月二十日に始まった。
エルヴィスが、ナッシュビルに到着する前に、録音はすでにはじまっていた。
しかし、セッションがはじまったにも拘わらず、エルヴィスはナッシュビルに現れなかった。
大佐の説明によれば、エルヴィスは、ナッシュビルに到着しているのだが、体調が悪いので静養している・・・・・・。

エルヴィスの云いまわしに従えば、それは「自尊心」の問題だったのだ。
「自尊心」の核心に位置していたのは、自らの才能が枯渇して時代に置き去りにされるのではないか・・・・・・という不安だった。

新しいミュージシャンが台頭してきた。
エルヴィスより一回りも下のミュージシャンたちのアイデアに、エルヴィスは、圧倒されていた。

エルビス、プリシラとの結婚式後の1コマ---〔PHOTO〕gettyimages

まだ未成年だった恋人のプリシラを、名門のカトリック女子高に通わせる事を誓って継父たちを安心させようとした。
実際の処、エルヴィスは結婚について、懐疑的であったという。
友人の宝石商、ハリー・レビッチに、指輪を用意するように頼んだが、ずっとクローゼットの隅に置いたままだった。
業を煮やした、プリシラの父親は、エルヴィスに、男としての義務をはたすように、と要求した。
それでも、エルヴィスは戸惑っていたが、一九六六年のクリスマスの時期になって、ようやく「義務」を遂行したのである。

エルヴィスは、子供っぽく笑いながら、プリシラに目をつぶるように求めた後、小さなビロードの小箱を差し出した。
小箱の中には、三・五カラットのダイアモンドの指輪が収まって居て、その周囲に一列の小さなダイアモンドが入っていた。
二人は、ダイアモンドを祖母に見せた。
そして、プリシラの両親に報告するのに、しばらく時間をおいた。
彼は、自分の口から、報告したかったのである。