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映画『ハンナ・アーレント』どこがどう面白いのか 中高年が殺到!

平日の昼間にもかかわらず、映画館に行列ができている。1960年代、あることがきっかけで世界中から批判を浴びたユダヤ人の女性哲学者の物語。日本人にいま受けているのには、理由があった。

ものすごく難しい内容なのに

11月中旬のある平日。東京・神保町の岩波ホール前に、50人以上の長い列ができていた。時刻は午前10時半。映画のチケットを求める人々が、上映の1時間以上も前から並んでいるのだ。

「主人に面白いから観てきたら、と言われて今日は友達と3人で来たんです」

60代後半の女性はこう話す。平日の朝という時間帯も関係しているだろうが、周囲を見渡すと中高年の男女が9割以上を占めていた。

公開中の映画『ハンナ・アーレント』が、いま中高年を中心に大きな注目を集めている。ドイツ系ユダヤ人の哲学者、ハンナ・アーレントという女性を描いた事実に基づく物語だ。

東京で唯一、この作品を上映している岩波ホールの企画担当・原田健秀氏は、その盛況ぶりに驚いているという。

「初日の10月26日は台風が来ていたのですが、3回の上映すべてが満員になりました。すでに公開から4週間近くが経ちましたが、平日の昼間は満席が続いています。100人近くが入れないこともある。良い作品なので、公開前から手ごたえは感じていましたが、これほど反響が出るとは思いませんでした」

配給会社のセテラ・インターナショナルによると、「東京・岩波ホールでの動員が非常に好調なので、全国のミニシアターからも引き合いが来ている」という。現在、東京の岩波ホールのほか、愛知・名古屋シネマテーク、大阪・梅田ガーデンシネマでも公開中。今後、全国各地で上映が予定されている(詳細は作品ホームページを参照)。

ミニシアター系の映画が、ここまで話題になるのはかなり稀なこと。

「ハンナ・アーレントは、20世紀を代表する哲学者の一人だと思いますが、彼女の代表作『全体主義の起原』は理解するのも大変な大著で、読んだことのある人は多くないでしょう。これほど盛況になる映画だとは考えてもみませんでした」

と東京大学大学院教授の藤原帰一氏も首をかしげる。いったい、何がそんなに人を惹きつけているのか。

まず、作品のストーリーを簡単に紹介しよう。