超高齢化社会に向けて、若年層にこびない本物の「時代劇」を残すべき!

朝日新聞「天声人語」の筆者といえば名文家ぞろいだが、極めつけといえば、昭和48年から50年にかけて、一人で書いていた故・深代惇郎氏(1929~1975年)だろう。リズム感に溢れた流麗な文章の持ち主で、一語一句に教養と気品が漂い、しかも洞察力が抜群。それでいて権威的ではなく、親しみやすかった。

その深代氏が、亡くなった年、NHKについてこう書き残している。

「NHKのイメージは、よく言えば穏健、中正、上品、意地悪く言えば取りすました紳士づら、というところだろうか」

38年も前の見立てだが、今でも通用するのではないか。「安倍首相カラーが強い」などと指摘された新経営委員の人選によって、「中正」が危惧されていることを除けば。

深代氏は、こう続けている。

「海外番組や報道、歴史物などにすぐれた力量を発揮するものもあるが、妙にこびた娯楽番組も少なくない」

これも正鵠を射ている気がする。

若者に時代劇を見せようと躍起になる必要はない

こびた娯楽番組---。低視聴率番組をあげつらうのは悪趣味だと分かっているが、11月21日に全10話の放送を終えた『木曜時代劇 あさきゆめみし~八百屋お七異聞』は、妙にこびたことにより、不人気で終わってしまった気がする。

平均視聴率5%未満。公共放送における午後8時台のドラマとしては、物足りない数字だろう。不振の理由は、見せたい層が絞り切れていなかったせいだった気がする。主役は若年層の支持が厚いとされる元AKB48の前田敦子。彼女の責任があった訳ではなく、アイドル的な女優を時代劇の主役に据えること自体に、無理があった。

時代劇ファンの多くは前田に関心がないはずだし、存在すら認知していなかったかも知れない。逆に前田のファンの大半は時代劇を見ないだろう。役をあてがわれた前田にとっても厄難だった。『Q10』(日本テレビ)などの現代劇では好演も見せるのだから。大御所・ジェームス三木氏の脚本が冴えていただけに勿体ない。

知人の元新国劇関係者によると、時代劇を演じるためには、たとえ侍役でなくても独特の所作や物腰の修得が不可欠。それには相当の時間を要するという。十分な稽古を経ずに時代劇を演じると、ちょっとした仕草に不自然さが表れてしまい、ドラマ全体の空気を壊してしまうそうだ。

スポンサーの手前、民放は購買意欲の高い若年層に番組を見てもらわなくてはならないが、NHKは若者に時代劇を見せようと躍起になる必要はないはずだ。こびなくていい。今の若者たちもいずれは熟年に達し、時代劇に目を向ける日が来るはずなのだから。

中年期を過ぎると、にわかに歴史に興味が湧く人が増えるが、それと同じ。誰でも年齢に応じて趣味に変化が生じる。1960年代のチャンバラブーム期を除くと、時代劇はいつだって子供や若年層には人気薄だが、その代わりに中年層や熟年層のニーズは絶えたことがないのだ。

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