『柴犬マイちゃんへの手紙 無謀運転でふたりの男の子を失った家族と愛犬の物語』著:柳原三佳---事故被害者の水島紀夫さん、納子さん夫妻のインタビュー

はじめに

11月20日、悪質事故の刑罰を強化するための新たな罰則を盛り込んだ「自動車運転死傷行為処罰法」が、参議院本会議で可決・成立した。交通事故遺族の声を受けて「危険運転致死傷罪」(最高懲役20年)が新設されたのは、今から12年前の2001年。しかし、実際にはかなり悪質な事故でもこの罪が適用されないケースが相次ぎ、疑問の声が上がっていた。

新法案成立と時を同じくして上梓された『柴犬マイちゃんへの手紙 無謀運転でふたりの男の子を失った家族と愛犬の物語』(柳原三佳著・講談社刊)では、2010年に東京・田園調布で起こった、極めて悪質な運転による7人死傷事故を取り上げたノンフィクションだ。交通事故遺族が直面する現実、危険運転致死傷罪と刑事裁判の限界などが描かれている。この事故でふたりの孫を失い、自らも重傷を負った祖父母が、本書に込めた思いを語る。

事故の概要

2010年12月26日、東京・田園調布の中原街道で大音量のラップ音楽に合わせて蛇行運転を繰り返していた乗用車が、歩道に突っ込み、信号が青になるのを待っていた4人をはね飛ばした。

信号を待っていたのは、水島紀夫(みちお)さん、納子(のりこ)さん、そして水島夫妻の孫で、帰省していたいとこ同士の光偉(みつより)くん(9歳)と遼人(はると)くん(6歳)。彼らは、飼っている柴犬のマイちゃんを散歩している最中だった。この事故で、光偉くんと遼人くんは亡くなり、水島夫妻も長期入院をともなう大けがを負った。

この事故をめぐる刑事裁判は裁判員裁判で裁かれ、加害者は危険運転致死傷罪で起訴され、検察側は懲役15年を求刑したものの、操作ミスによる「過失」だとして、自動車運転過失致死傷罪にもとづく懲役7年の判決が下され、刑は確定した。