乗り移り人生相談傑作選『男と女は誤解して愛し合い、理解して別れる』(島地勝彦×三橋英之)より一部抜粋

はじめに

「ミツハシ賢弟 これはケッサクだ! シマジ愚兄より」

毎週月曜日の朝、シマジさんからのFAXが職場に届く。前夜、私・ミツハシがメール送信した「乗り移り人生相談」の原稿にシマジさんが筆を加えた戻し原稿である。その冒頭には必ず、ごく短い感想が記されている。ちなみに「乗り移り人生相談」というのは、この本の元になった日経BPネットの人気連載である。

この五年近く、ミツハシは週末の数時間をこの連載の執筆に充ててきた。当初、オフィスで原稿を書いてみたことがあるが、まるで調子が出なかった。サロン・ド・シマジで繰り広げられた会話の面白さの十分の一も再現できないのである。腕が縮こまり、ストライクゾーンにボールを置きにいったピッチャーの棒ダマのように、伸びもキレもない原稿になってしまうのだ。

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ちなみにサロン・ド・シマジというのは、シマジさんの仕事場であり、二百五十本のシングルモルトウイスキーと二百本のシガーを蔵して夜な夜な怪しい大人が集うサロンである。

なぜ、オフィスでは書けないのか。シマジさんはよくこう言う。「味噌汁の匂いが漂い、掃除機の音がする部屋ではロマンチックな愚か者の話などバカバカしくてかけない」。それと同じ理由である。

ミツハシが勤務するのは、「経営」と「技術」に関する情報をカバーする出版社だ。消費税と財政健全化の関係を議論する同僚の横で、「おちんちんをしゃぶられて間抜けな声を出してしまった男が、その声を聞かれた女から尊敬されると思うか?」などという文章を平気な顔で綴れるほどの胆力をミツハシは持ち合わせていない。

やんちゃな愚兄とは異なり、賢弟は常識人なのである。